久田和弘、『Pet』について語る(終)

ヒロキと司に対し仕事を依頼する会社は、その見返りに生活と安全の保証を約束するも、それは自由とは程遠く、終始監視・管理される生活は永遠につづく―――。そんな生活に嫌悪感をいだくヒロキは、司に「将来ふたりで店をやろう」と持ちかけるも、なぜか曖昧にはぐらかされ…。

会社と仕事憎しのあまり、この時点でヒロキは大切なことに思い至っていません。なぜ、司は無理を承知で会社の仕事を引き受けるのか?この疑問の根本に林と司の関係性が潜んでいるワケですが、まぁそれは置いといて。

さて、肝心の司はというと、じつはなに一つヒロキに説明をしていません。それでも全くヒロキが司を疑わないのは、無条件な信頼が成立しているからですが、絶対無欠に思われた絆が、物語りがすすむにつれ諸刃の剣へと化していき…。

司がヒロキについて語るとき、「あいつは俺の言うことなら聞くから」という言葉を数多くくちにする場面がみられます。それは支配欲か、あるいは信頼か、それは誰にも分かりません。
ここで重要なのは、司にすら自身の本心が見えないということ。林さんと有無を言わさず離されたとき、ヒロキを見つけたとき、会社で働かされることについて、本当はどう思っているのか―――彼の心はずっと前から水中で溺れたまま、誰にもその姿を見せません。

誰か、僕をみつけて……

溺れながらそう願う彼の手をつかむのは、ヒロキとの絆か、林やサトルとの確執か、一体どちらなのでしょう。