久田和弘、『ヴィンランド・サガ』について語る(終)
アシェラッドも、トルフィンの父親も、結果的に「殺し殺される連鎖」から抜け出せず、それでも最後は何かを守りながら物語から退場します。そして彼らが「守ったもの」はそのままトルフィンに託されると同時に、彼自身の生き方が試されるのです。
トルフィンの人生に大きな影響を与えたふたりの男性から託されたものを守り抜くため彼が出した答えは「逃走」でした。相手を傷つけず、自分も傷つかず、「争いを避けられる最適な選択肢」としてトルフィンが逃走を選ぶと同時に、「本当の戦い」が幕を開けます。
『ヴィンランド・サガ』ではくり返し「愛とは何か?」という問いが登場するのですが、トルフィン自身この疑問にぶつかる場面が多々あり、想像するに物語の分岐点に当たるのかな、と…。
何故、父上は「剣などいらぬ」と言ったのか?
何故、クヌート(デンマークの王子であり、ある意味”もうひとりの主人公”)は父王から遠ざけられたのか?
何故、アシェラッドの計算が唐突に狂ったのか―――?
この疑問の先に「愛」があり、大切な人たちを守ることがそれであるという作者自身の答えに呼応するように、「暴力からの逃走」を選んだトルフィンの物語は、彼が目指す「誰もが幸せに暮らせる国ヴィンランド」へと無事到達するのでしょうか?
…なんて、一見重いテーマではあるものの、割とギャグも多めなので、読んでいて息苦しくないですね。久田的には成人後の明るさをとり戻したトルフィンと仲間たちの掛け合いが気に入ってます!
