久田和弘、『ヴィンランド・サガ』について語る2
『ヴィンランド・サガ』の主人公である「トルフィン」は、「歴史上実在したとされる」人物です。(ちなみに本名は”ソルフィン”ですが、英語読みだとトルフィンになるみたい)
この方、Wikipediaに名前が載るくらいには有名人なようで、しかし詳細な経歴については一切記載されていません。「サガ」には大陸までの旅の様子と「アイスランドの商人または探検者」としか記されていないのです。
『ヴィンランド・サガ』はいうなれば「トルフィンが”商人→探検者”を志すまでの変化を補完する物語」です。それより以前―――物語のスタート時、彼は「戦士」であり「ヴァイキング」の一員でもありました。
「西暦700年代の終期から約300年の間、竜頭の船をあやつる民族が北ヨーロッパに存在した
西欧諸国 ロシア 北アフリカ ギリシア トルコ 中東に至るまで
彼らはあらゆる地に現れ、戦い、略奪し去っていった
(中略)後の世にヴァイキングと呼ばれる者達である」
(『ヴィンランド・サガ』1巻 P84~86)
1000年代、ヴァイキングによる「暴力」の勢いは西洋を覆い尽くさんとし、様々な地に争いの火種を撒き散らしていく最中、そこにトルフィンもいたのだとすれば…彼もまた誰かから、当たり前のように奪い、殺すことをくり返したのでしょう。
けれど、歴史上「商人、探検家」とされている彼と、ヴァイキングとして生きた過程とでは、「トルフィンの人物像」にあまりに大きなギャップが存在してしまうため、これを無視はできません。
もちろん、このギャップこそ、『ヴィンランド・サガ』における醍醐味でもある訳ですが。
