久田和弘、『不滅のあなたへ』について語る5

儀式の管理を行う女性から突きつけられた言葉にマーチは激怒し、地団駄を踏んで「意味分かんない!!」と泣き叫びます。
そんな娘に対し、「大人しく…」と言う父親。
個人的には、この言葉が、マーチと「それ」を巡る物語の全てをあらわしているような気がします。大人になりたいと願った少女が周囲の都合で死を宣告されたことの理不尽に怒る、そんな娘に父親がかけた言葉が「大人しく→黙れ」だなんて、あまりにも矛盾しているじゃないですか。
だからこそ、このシーンは色濃く印象に残りました。

「物分りの良い子供」として全てを受け入れるのか、それとも「矛盾を許さず」突き進むのか、マーチは選択を迫られます。

そして儀式当日…ひょんなキッカケから逃げ出せた先でマーチは「それ」と出会い、最初は相手の人間性を欠いた行動に戸惑いつつも、結局は放っておけず行動を共にすることに。
マーチは「年上の良識を備えた人間」として「それ」と接し、彼に「フシ」という名前と果物を与え、礼の言い方を教えます。

大人になれないと宣告された少女は、フシとの出会いを通し、果たせなかった成長―――「母性」を発揮したのです。これが後にフシに大きな影響を与えると同時に「反撃の狼煙」を上げるキッカケになります。

(…ところで、1話を読んだ方ならお気づきだと思うのですが、マーチがフシに与えた”果物”は、少年が生前語っていた”夢”とも大きく関係しているのです…)