久田和弘、『不滅のあなたへ』について語る3
元々ただの丸い物体でしかなかった「それ」は、様々な「刺激」を得ることで少しずつ学習し、世界で生きる術を学んでいきます。
「それ」が大きく変わるキッカケとなる刺激は「死」です。ひとつはオオカミの、そしてもうひとつは生まれて初めて優しい言葉で語りかけてくれた少年の「死」を通し、「それ」は何度も繰り返し新しく生まれ変わります。
まず最初にオオカミの姿を獲得した「それ」が次に選んだのは、傍らで息を引き取った少年の姿。「それ」は少年に生まれ変わることで、少年が生前憧れていた「外の世界」へと旅立ちます。
「外の世界」は、少年が唯一抱いていた夢であり、生きる希望と理由であり、同時に彼の命を奪った要因でもあります。少年が「外の世界を知りたい」と思わなければ、予想外の危険が彼を襲うことはなかったというのに―――…。
けれど、少年の存在は消えても、「願い」は存在し続けます。
何故なら、「それ」が外の世界に一歩踏み出したからです。
死んだ少年が生前果たせなかった「願い」を抱え、「それ」は歩きつづきます。
しかしここで大きな問題が…「それ」は、少年の姿をしていながらも、「人間」としての概念をほとんど持ちません。中身は空っぽのまま、精神がほとんど機能していない「それ」は、言い換えれば「歩く肉塊」と同じです。
考えるに、本当の意味で「それ」が存在を得るには、精神を揺るがす「刺激」が不可欠なのでしょう。
