久田和弘、「尾崎かおり」について語る(終)
『神様がうそをつく』『金のひつじ』これらの共通したテーマは「大人との関わり」です。主人公である子どもらが全力で「大人」にぶつかることで、彼らが決して完璧な存在ではない現実を目の当たりにするという経験を通し、「社会」とのつながりを得ていきます。
同時に尾崎かおりが描く2作品の特徴は「親が子どもに甘えている」点です。なつるは夫を亡くし女手ひとつで息子を育てたBL作家の母親の精神的支えになりながらも、そのじつ悩みや不安をうまく言えず、言ったとしても一蹴されてしまう環境にいます。理生もまた、行方知れずの父親の「帰ってくる場所」になろうと小さな体で懸命に家と弟を守り抜いています。
『金のひつじ』では、明るく少しのことでは決してめげない継に母と姉は完全におんぶに抱っこ状態。幼馴染の空は、食卓で父から投げかけられる空虚な「頑張れ」に「何を?」と心のなかでつぶやき…。
誰もが皆、「うそ」を抱えて生きています。本音や綺麗ごとだけで生きられないのは、ある意味大人も子どももそれ程の違いはありません。でも人は、綺麗ごとが言えない自分に不思議と葛藤するものです。その矛盾が、人としての成長を促し、大人や社会の持つ「複雑な魅力」を映し出してくれるのでしょう。
尾崎かおりの作品には、「フィクション/現実」の間にある複雑なものをキラキラ輝かせてくれる装置が潜んでいるのかもしれません。
