久田和弘、『群青にサイレン』について語る(終)

近年、少年漫画や青春部活ものの「主人公像」は多様化しているものの、それにも増して屈折してしまった修二の序盤の見せ所といえば「強い感情」ではないかと。
最初は高校で再会した空に対するライバル心・嫉妬・焦りからくるドロドロとした感情が、やがて純粋な勝利欲へと変化していく最中で、読者に爽やかな魅力を振りまいてくれるという期待感が強いキャラクターですね!

例えば、高校野球部の下見をした際先輩たちに実力を見せろと言われた修二は、まるで相手を攻撃するかのように力強い一球を投げます。いっしょに入部した空の目の前で早く結果を出そうと焦る修二ですが、他校との練習試合で結果的に使い物にならず、主役の座を空に奪われてしまい、激しく嫉妬します。

しかしその一方で、試合後に逃亡した修二を心配する空に対し、妬ましさや羨ましで自分で自分を傷つけている現状を知ってもらいたいと望みつつ、「それでも、俺が望む”俺”になりたい」と、読者に対しはじめて本心を見せる場面に、彼の今後の伸びしろを期待してしまう久田和弘。

きっと修二はストーリーが進むと同時に、多くの挫折を味わいながら感情を爆発させ、心のなかのドロドロを昇華していくのでしょう。屈折した精神の傾きを少しずつ修正し、「うまく言えないけど」の先が言葉にできた時、修二にとってはじめて「先」が見えるのかもしれません。

それ以上に不安なのは空の動向ですが…表面的には周囲と打ち解けているようで、読者にすら本音を明かさない空の「言葉のつづき」も、ある意味『群青にサイレン』の醍醐味なのでは?