こんにちは、久田和弘です。今回も前回に引き続き『さよならソルシエ』の魅力を語りたいと思います!

舞台は「芸術の都」パリ。しかし芸術の都とは名ばかりで、当時絵画の閲覧・購入は全て特権階級のみに許された金持ちの道楽でした。「”グーピル商会”の認めた絵画しか作品として認められない」という暗黙の了解のもと動いていたパリの美術シーンでは、今日も画商がブルジョワに対し一般市民では手にも出来ないような値段で絵画を販売しています。

そんななか、天気の良いパリの街を散歩する紳士がひとり。
彼が浮浪者のあいだで行われていたチェスに飛び入りで参加をしている最中、彼を探し回っていた店の店員から「支店長!」と呼び止められ、そのまま引き戻されてしまいます。
彼こそ、この物語の主人公、テオ―――グーピル商会が主催する画廊の支店長にして画商。当時のパリではそこそこの地位にいる人物です。
店員に連れられ店に戻り、オーナーに「天気がよかったから散歩をしてた」と正直に答えたテオは「お前は犬か」と一蹴された挙げ句、小言をくらいながら「画商の品格」について講義をする相手を遮り、ひとこと。

「窮屈ですね」

そう、「ある人物」を兄に持つテオにとって、特権階級しか相手にしないこの時代のパリの美術は「窮屈」そのものなのだ。
・・・しかし、彼が心から求める「新しい時代の芸術」は、まだ生まれていない。けれどその道筋は、「テオドルス・ファン・ゴッホ」の頭のなかに全て、完璧に描かれている―――。

(久田和弘)