こんにちは、久田和弘です。今回も前回に引きつづき『BANANA FISH』の魅力について考えていきます!

奥村英二は、一見何の変哲もない大学生で、走り高跳びの選手として海外に留学中だったけれど、怪我で断念。その際、周囲からバッシングをうけた英二は、「緊急避難」と称し、知り合いのカメラマンである伊部とともにニューヨークへ旅立ちます。そして伊部とニューヨークのストリートチルドレンの取材中、リーダーを紹介すると誘われて出会ったのがアッシュでした。
当初はアッシュの周囲で巻き起こる騒動から一刻も早く英二を遠ざけたいと考えていた伊部でしたが、以前とは見違えたように明るくイキイキと振る舞う英二の様子を目にすると、迷いが生じてしまいます。
また、伊部を迷わせたもうひとつの理由は、アッシュが英二にだけ見せる「普通の青年らしさ」でした。
マフィアの商品だった過去からなんとか這い上がり、ストリートチルドレンを束ねるチームのボスとして恐怖で周囲を威圧してきたアッシュは、素直で素朴な英二といる時だけ「嫌なこと」を全て忘れ去り、どこにでもいる17歳の青年として振る舞うことができたのです。プロのスナイパー顔負けの射撃能力で敵を追い詰める顔とは真逆の、アッシュの繊細な一面を垣間見た英二は、やがて「彼の心を理解し、支えたい」と思うようになります。

そんなふたりの青年の、純粋でギリギリの「願い」を見て取った伊部は、ついふたりを引き離すことを躊躇し、そしてアッシュに突きつけられた残酷な運命に涙を流し、こう言います。
「あんなに良い子なのに」

(久田和弘)