こんにちは、久田和弘です。今日も『僕のジョバンニ』の魅力について語ります。

チェロへの情熱を誰にも理解されず、たったひとりの味方だと思っていた兄でさえも奏者への道を諦めてしまい、持て余した熱をチェロを弾くことでひとり癒そうとしていた鉄雄の元へ、予想外の来訪者―――郁未がやって来る。驚く鉄雄を真正面に捉え、郁未が言う。
「鉄雄、お前が俺を呼んだのか」

海難事故からたった12歳の郁未が自力で生還した理由、それは、鉄雄が弾くチェロの音色だった。本人曰く、「誰かに呼ばれた」「声が聞こえた」そうで、声のする方を目指して泳いだらしい。そんな郁未にしか届かなかった「音」の正体は、鉄雄が弾く「チェロよ叫べ」であった。

それからというもの、心を閉ざしていたのが嘘のように、郁未は鉄雄に無条件に懐きだしたものの、鉄雄以外の人間には目もくれない、完全に「雛の刷り込み」状態です(笑)
しかし、それまで自分の胸の内をあかせる同年代がいなかった鉄雄にとって、郁未の変化は喜ばしいものだったようで、彼がどんなにクラスの男子に嫌われようと、特に本人に対して注意はせず、逆に陰口をたたく連中を言い負かしてしまう。想像するに、同年代の、それも男の子と同居というできごとを、人見知りな鉄雄は、かなり心待ちにしていたのかもしれません。ところがじっさいに会ってみると、相手は一切口を聞いてくれない。
・・・なんだよ、つまんないなー、せっかく兄ちゃん以外の味方ができるかもって期待したのに・・・と、一度はむくれた鉄雄には、郁未の変わりようは、嬉しい誤算だったのでしょう。

(お相手は久田和弘でした!)