こんにちは、久田和弘です。前回にひき続き、人気マンガ家「羽海野チカ」の魅力を探求していきますので、最後までおつき合いいただければ幸いです。

 

まず、『ハチミツとクローバー』で読者の目にはじめて触れた独特でカラフルな絵柄があたえたインパクトと、そしてなによりも「美大」が舞台という、これらが「オシャレ漫画家」の称号を与えた要因ではないかと。いちファンとしては、「いやいや、メインは登場人物たちの気持ちと行動であって、“美大”はあくまでも設定に過ぎないんだってば!」と声を大にして言いたいのですが。

羽海野チカがつくりだす登場人物たちの複雑な魅力が如実にあらわれているのは『3月のライオン』だと個人的には考えています。ストーリーは皆さんご存知だと思うので省きますが、この物語の主人公、零は、幼い頃からさみしさを抱えながら生きてきた少年です。しかしとても不思議なのが、零は自分のさみしさを決して他人に訴えず、とことん相手に優しいということ。これは『3月のライオン』のキャラクターだけではなく、彼女が発表した作品の登場人物すべてに共通しています。皆、心に傷があるからこそ、自分と同じように傷ついた人間を放ってはおけないのでしょう。

 

たとえば、竹本くんは看護師の母親から女手ひとつで育てられたためか、体調が悪化したはぐの様子にも動じず、すぐに彼女を介抱できたのは、「家よりも病院に入院していた子どもたちと過ごすことが多かったから」ではないかと。