「そんな・・・。ああ、先生に伝えないと。すぐこちらに来ると思うんですが」


  「落ち着いてください。自分で言うのも変ですが、すぐに思い出すと思いますよ」


  「そうですか・・・?」


岸田はさっきから引っかかっていた疑問が何なのかに気づいた。


  「自分は何で一週間も眠っていたんですか?後頭部を殴られて一週間も意識を失うんですか」


  「あ、それは先生も疑問に思ってましたよ。普通なら2,3日で目覚めるはずだって。詳しくは先生に尋ねてみて下さい。」


  「分かりました。」


  「それにしても遅いですね。ちょっと呼んできましょうか」


岸田は返事を返そうとしたが、強い苦痛が頭を襲った。


  「ぐ・・・。」


  「・・・岸田さん?」


頭のどこか遠くで声がしたかと思うと、ふっと目が真っ暗になった。

  「看護婦がこんな事聞くのは失礼だと思いますけど、犯人に心当たりとかあるんです?」


  「えーと・・・それがですね。実は記憶が無いんです・・・」


松本は目を丸くした。


  「え?それは一体どういうことですか?」


  「そのままです。自分についての記憶が全く無いんです」


記憶喪失はこんなに自覚があるものなのかと岸田は少し疑問に思った。




  「それがですね、事故とかではなくて、岸田さんは何者かに襲われたんです。後頭部を殴られ、腹部を刃物で刺されました。通行人の方が岸田さんを発見して、すぐ通報してくださったので大事には至りませんでした。」


  「そうなんですか。その人に感謝しないといけませんね」


  「ですね!それで警察の方が体調が回復次第、加害者に心当たりが無いか事情聴取をしたいそうなんです。」


  「はぁ・・・。」


心当たりどうこう以前に、自分が誰なのかも分からないのだと心の中で皮肉った。