綾野剛が好きだ。
演技のうまさ、そしてあの顔だ。
役によってガラッと違う人になる演技も
観る作品ごとに、惹き込まれるもとになる。
あの、特にハンサムとも言えない顔の底に漂う哀愁は
誰にでも真似できるものではない。
聞けば、幼い頃にアパレル関係の会社を経営していた父が
倒産の憂き目に遭い、両親が離別、
母は水商売に就き、一人留守番の幼い子供の剛は
唯一の居場所が「押入れの中」だったそうな。
一人でいるのが平気と言う子供時代、
どれだけの寂しさ、心細さを小さな胸に抱えて隠していたのだろう。
演技のなか、、おもに哀愁漂う顔だが、、には
その、事情を聞かなければ知ることのなかった
幼き日の、「感情を胸に仕舞い一人で押入れで遊んでいた少年の切なさ」が
場面によっては、観るものの心をも切なくする。
しかし、笑顔は、、多分滅多に見せなかった笑顔なんだろうが、
とびきりに優しい。
ある時は、厳しい警察官であった彼が
取り締まりのために暴力団に出入りするうちに
自身がどっぷりと「悪」に染まる役。
ある時は、新宿歌舞伎町で、
チャラさ全開で、ホステスや風俗嬢のスカウトマンを演じる。
また、別の警察官役では
型にはまらない、俊足の刑事。
あー、産婦人科の医師になったりもしたな。
私の個人的意見だが、
いつの頃からか、日本のドラマや映画が
お人形みたいなメイクばっちりのアイドル風な
役者を起用するためか、それとも本が面白く書けていないためか
本当に見る気のしない学芸会みたいなドラマや映画になった。
お、この役者いいぞ!とか
この脚本、誰が書いたの?面白い!とか
あまり感じなくなった。
昔の役者は美しかった。
今のアイドルとは違うけれど、いや、もっと美しかった。
それで演技なんか下手な人もいた。
なんなら三船のように、「訛り」なんかある人もいた。
だけど、その人たちは演技以前に「オーラ」があった。
オーラがありすぎて、演技なんか下手でも全然オッケーだった。
今のお人形ちゃん達、美しいけどそこまでじゃないし、
下手な演技を打ち消すオーラなどは、探しても見当たらない。
だから、話題になっている映画も
ガッカリするような気がして観ていない、「国宝」とか。
綾野剛の作品は、Netflixも含めて、
(自分のなかでは久しぶりに)あの人が出るなら観てみよう!と、
殆ど全作品を観たつもりでいる。
なかには、こりゃダメだという作品もないではないが、
あの憂い顔を活かせない監督がダメなんだろう。
ちなみに、吉永小百合の昔の映画は美しさも天下一品だが、
演技も生き生きしているし、
何よりオーラがすごい。
今の婆さん小百合は、歳のせいだけでない
妙な抑制が、ちっとも魅力的でない。
歳とっても、あれだけのオーラを大切に
生き生きと演技してもらいたいのに
暗くて観る気しない、、ワタシの独断と偏見です
吉永と同様、綾野の滑舌は、「ラリルレロ」が滑らかでないが、
まあ、それは他の演技部分でカバー出来ていると思っている。
さて「でっちあげ」、、。
これは2003年に、福岡で実際に起きた事件を題材にしている。
この事件が起きた時に、メディアで騒がれた「殺人教師」のワードには覚えがある。
なんてひどい教師がいるんだ!
教師なんて信用ならない!
その時に、確かに自分もそう思っただけで、
事件の真相も、その後の顛末さえも気にしなかった。
実際、その後の顛末など、
どこのニュースでも取り上げてなかったように思う。
しかし、
我が愛する「綾野剛」の映画では、
今の世相のなか、ちょっと油断するとこんなふうに
犯罪者に仕立てあげられるばかりか、
二度と立ち上がれないほど、メディアに叩かれる。
インターネットの世界は、日本中、世界中の
顔も出さない人たちから、罵詈雑言を浴びせられる。
映画では、綾野が
生徒の母の言い分通りに「悪い行動」をとった、、と
仮定したシーンも演じる。
母親の訴えによって、ズタズタに傷ついた頼りない先生の様子も
「しっかりしな!」と、背中を叩いてやりたくなるほどうまい演技だが、
仮定シーンの、「悪い先生」にもなりきった演技が
本当にうまい。
こんなに笑顔の下に、「悪意」を忍ばせる役がうまい人は
ちょっと考えて、綾野剛くらいの年齢の、
他の役者に見当たらないほどだ。
この映画は、造りものでない実際の事件の
一部始終をストーリーとして見せているが、
昔だったらこんなに騒ぎにはならなかっただろうし、
自分を「よく見せたい」ために
平気で嘘をつく病気、、
昔にはなかったのか?と言えば、多分昔もあっただろうが、
根本的に違うのは、
個人も、家庭も、会社も、地域も、
そして国も、
「われが、われが」と、自己主張しないと「損をする」という世の中に変わってきたことだ。
謙譲の美徳などと言う言葉は
意味をなさなくなったことだ。
しかし、教育の場で
子供だけは、この世相に流されて傷をつけられることを避けなくてはならないと思う。

