ベトナム人は皆優しい。

お互いに助け合うという気持ちがあって、親切だし、

行き過ぎておせっかいと感じることも少なくないくらいだ。

しかし、順番というものに対しては優しさが見えない...

 

ベトナム人は並ぶということをしない。

先に来た人が優先的という考え方がない。

そもそも並ばなければならない状況は少ないのだけど、

市場での買い物のときなども声を張り上げて

「これとそれちょうだい!」と叫んだもの勝ち、

さっと隙間に入り込んだもの勝ち、

腕を伸ばしてお金を渡したもの勝ち。

何人も客がいるときは、皆お金を差し出しながら口々に何か言っている。

 

全身で主張して順番を獲得するというトレーニングを積んでいない私は、

混んでいるときは機会がくるまで待つことがほとんど。

まあ、ベトナムの生活では急がなければならない理由も特にないので、

たいして困らないのだが、すごくすごーく困ることがひとつだけあった。

 

それは公衆のトイレを使うとき。

大学に通っていた私は、休み時間にトイレにいくのだけど、

個室に入ろうと思うとさっと他の人が素早く入ってしまうのだ。

仕方ないから空くまで待っていて、前の人が出たので入ろうとすると、

また別の人がやってきてサッと入ってしまう。

出る人の邪魔にならないように、ちょっと横によけたりすれば

さらに他の人に明け渡す形になってしまう。

その瞬発力はイントロ早押しクイズの決勝戦くらいに早くて、

タイミングを真似しようとしても私は手も足も出ない。

休み時間は終わるし、我慢も限界だしで、

仕方ないので次の時間に遅れていく羽目になる。

授業に遅れるのはいいとして、

生理現象が切羽詰まっているときは本当に最悪だった。

 

私の後から来て先に個室に入る子たちは、

扉の前に立っている私をただ「この人邪魔だな」くらいに思っていたのだろうか。

休み時間の間、ただただトイレに立ち尽くす変わった人でしかなかった。