私がはじめに住んだところは、ナムサイゴンという、

今でこそきれいに整備され都市化されているようだが、

輸出加工区と呼ばれる工業地帯に隣接した、

当時は家屋も街灯もなーんにもない舗装もされていない荒野のようなところだった。

その荒野のずっと奥に日本語学校と外国人向け高級マンションを含む12階建てのビルが

にょきっとそびえているのは異様な光景だった。

その上階のマンションの一室(といってもめちゃ広い1LDK)が社宅としてあてがわれ、

エレベーターを降りるとそこが職場になっている。

市街地に買い物に出るのは一苦労で、

炎天下の砂利道を延々と歩いてどこかの集落につながる交差点でバイクタクシーのおじさんを見つけるか

電話でタクシーを呼ぶか。

私は早々にバイクを購入することにした。

 

普通免許は持っている。が、国際免許なんてものもなく、バイクの運転は未経験、しかも右側通行。

足でギアチェンジのマニュアルタイプ。ミラーなし。ノーヘル、サンダル履き。

 

ベトナムのバイクの群れをご存じの方もいらっしゃると思うが、

道路をぎゅうぎゅうにバイクがひしめき合い、絶えずクラクションを鳴らし、

草食動物の群れのように惰性で流れていくような交通。

当時は市街地ですら信号機もほとんどなかった。

交差点はカオスだ。

譲るという発想はないようで、皆すきを見ては強引に進んでいく。

左折も別の群れに突き刺さっていくような感じだ。

 

(私が帰国するころヘルメット着用が義務付けられた)

 

歩行者が横断したくてもまず誰も止まってくれない。

信号がないのだからそれを頼ることもできない。

勇気を出して、渡るぞオーラを全開にしながら一歩を踏み出し、

じわりじわりと足を進めるのが正解。

 

交通ルールはないのか、とベトナム人訊ねると、

「ぶつからないことです」という答えが返ってきた。

ほう、なるほど...それは究極ですな!

とにかく前だけに集中し、後ろや横はそこを走る人の責任、

という暗黙のルールはあるようだ。

なかなか怖い思いをしながら運転を習得していった。