自分は経験のないことでも割と抵抗なく受け入れられるつもりでいたが、

住みはじめて戸惑いを感じたのは、いつでもどこでも誰からでも、個人的なことを根掘り葉掘り質問されることだ。

職場の同僚のような人から、面識のない人まで。

買い物中でも、タクシーの運転手からも、カフェで近くに座った客からも、本当に誰でも。

 

 「何歳?」「結婚してるの?」「彼氏はいるの?」「どこに住んでるの?」

「親は?」「なんで一緒に住まないの?」「仕事はなに?」「給料はいくら?」

「どこに行くの?」「誰と?」「何買ったの?」「いくらだった?」「体重は何キロ?」

まあとにかく質問がやむことはないし、答えたことにさらにどんどん踏み込んでくる。

特に困るのは「給料はいくら?」と「電話番号何番?」だ。

 

当初、日本語学校からもらっていた給料は1か月350ドル。

それでも、現地の人々にしてみれば大金だった。

さあね、とか、秘密とかは通用しない。

「なんで?」とたたみかけてくる。

正直に答えて狙われたりたかられたりしても困るし、あまり安く言うのも嘘っぽいので

「まあ、生活に困らないくらいに」と濁すと、

「そんなんじゃダメだ、もっと稼いで親に楽をさせてあげなさい」と叱られるありさま。

 

 ベトナム人たちは言う。

「ベトナム人は好奇心が旺盛だと思われているようだが、これは好奇心ではない、関心だ」と。

「あなたに関心がありますよ、という表現であり、決して好奇心ではない」のだそうだ。

社交辞令というやつね。

しかし、一瞬会っただけの人に「早く結婚しなさい」と言われ、

「あそこにいる人は恋人か」と聞かれ、

「そこの仕事を自分にも紹介してくれ」と言われ、

「あなたのそのサンダルはいくらだった」と聞かれ、

「なぜそんな苦労をしているのか」と嘆かれ、いやはや。

 

 時が経つにつれそんな社交辞令にも慣れたが、

自分からあれこれと質問することは最後までできなかった。

冷たい奴だと思われていたにちがいない。