最初の宮澤賢治全集は戦前に文圃堂書店さんから出版されていますが、その後原版を譲渡された「十字屋書店」さんが戦前~戦後に渡り全集を出版されています。内容は1~6巻+別巻の計7巻で、半世紀以上前の書籍となります。

十字屋書店さんは未だ営業されているようですが、訪問したことはありません。地図で見ると、神田の靖国通りの古本屋街に有りました。お店自体は新刊書のお店で、八木書店さんの東、直ぐ近くでした。何回も前は通っていたようで気が付かなく、迂闊でした。その後は、発行元が筑摩書房となり現在に至っていますが、その辺りの事情は私には分かりません。

 以前、神田の古書店(多分、一誠堂書店)で、十字屋書店版の1巻、5巻(1953年発行)の二冊のみを購入し持っていましたが、やっと全巻を購入する気になりました。この全集をセットで購入すれば、多分数万円の価格となる事でしょう。で、勿論バラバラでの購入で、古書店3社からで、戦前・戦後の版が混じります。発刊に当たっては、編集者に高村光太郎さん、中島健蔵さん、谷川徹三さん、横光利一さん、草野心平さんを始めとする、まばゆいばかりの方々の名前が並びます。

 私は、古書としての価値は求めていません。ただ十字屋書店版全巻を、その後の筑摩書房版の校本・新校本等と比較したいだけです。弟君の宮澤清六さんが戦火から守った例の「兄トランク」や、土蔵に焼け残った資料を、小倉さん、草野さんの先達の方々が精力的に調査し、更に国文学者の小沢さん、フランス文学者の天沢さん、入沢さん方が「賢治の宇宙」を解明されて来たようです。有名な「銀河鉄道の夜」や「グスコーブドリの伝記」なども、昔と比べ、今やかなり構成が変わって来ています。焼け残った原稿用紙の書式・番号・印等を精力的に調査されたようです。

かなり前、「ほるぷ出版」から復刻版の名著が出版された様で、「春と修羅」、「注文の多い料理店」などは古書店で買い求めましたが、流石に初版本は購入出来る訳もなく、雰囲気を楽しんでいます。

最近小学校での日本語ボランティアで、「やまなし」に出会いましたが、これを外国人の彼らは、多分日本人でも、理解できるのか、との疑問を持ったのが購入の理由です。 

 さて、購入は3社からで、まず1巻、2巻、4巻、5巻と別巻の計5冊、次が3巻のみ(これだけは装丁が違う)、次が6巻のみ、計7冊。「日本の古本屋」さんのページをネットで眺めていたら、あ!これで全7巻が揃いそうと気が付きましたので、何の確証も無く購入していました。

 

1巻: 詩集 乾巻(意味:上巻又は”陽”)1946年発行の普及版

         3版(初版1944年)定価¥50

2巻: 詩集 坤巻(意味:下巻、又は”陰”)1948年発行の普及版

         2版(初版1940年)定価¥210

3巻: 童話(前)1939年発行、初版の再印刷(但し特製本ではない)

         定価3円20銭。クロス装?でこれだけサイズ・表装が違う。

         以前神田で購入した2冊と同じものでは?

4巻: 童話(中)1947年発行の普及版・2版(初版1940年)定価¥80

5巻: 童話(後)1947年発行普及版・初版?(初版1947年)定価¥200

6巻: 雑編   1947年発行普及版・2版(初版1943年)定価¥90

別巻: 雑編   1948年発行普及版・2版(初版1944年)定価¥160 

      

 1946年~1947年にかけインフレでもあったのでしょうか、価格が急騰しています。しかも、全てが箱のない、裸本。以上乱暴ですが、当時の価格合計793円20銭。今回の実質支払い総額はかなりの額、多分¥2万以上となりましたが。

 バラバラでの購入でしたが、やっと何とか7巻全巻を揃えました。3巻目以外の戦後発行分の装丁は悪く、書籍自体が何故か軽いし箱も無い。発行年と価格がそれぞれ合致しないのが不思議です。が、それにしても状態は良くないものの、よくぞ残っていたものです。それでも、紙質は当時の状況を考えると意外に良く、紙自体に変色、和紙風の異物?の混入はあるものの、手触りは滑らかで綺麗な状態。しかもカラー印刷のページが2ページもあります。内容は旧字、旧仮名遣いで、私の歳では何とか解読出来る?程度の状態です。

 明治・大正の書籍を、最近は旧字・旧仮名遣いを、翻訳宜しく現代日本語に訳して?あるようです。私は古書・初版収集マニアではないので、カバーくらいは付けますが、何とか読めますのでじっくりと読み進める予定です。

まずは、書籍の箱が無いなら作ってしまえ、とばかり原寸合わせで、現物を見ながら、ヒマに任せて近所の「紙専門店」で材料を購入、箱をボール紙と和紙で作りました。何年も経てば箱の色も代わって来るでしょう。

 戦前~戦後にかけ、宮沢賢治全集は、文圃堂さん、十字屋書店さん、完結しなかった読書組合さん等々多数が出版されていますが、文圃堂書店さんのもの以外は全て、一部は購入したりして、目にしています。しかも、十字屋書店版にクロス装?と鹿島茂さんの言われる、カルトンもしくはカルトナージュ(ボール紙?)表装の二種類があるとは知りませんでした。念のため、クロス装?とカルトナージュ装の5巻目同士の内容を比較しましたが、内容は全く同じで、表装のみの違いだけである事が分かりました。結局、戦前・戦後の十字屋書店さんの全集は、少数の特装版、通常版、普及版と三種類以上?が存在するようです。が、内容は全て同じと思われます。版権が筑摩書房さんに移り、宮澤清六さん監修のもと、やはり輝く程の作家、学者さんの努力を得て、「賢治の作品」には完成形はないとの意志の元、「宮澤賢治全集」は何回も改定・改版され続けています。

 宮澤賢治全集・筑摩版を毎回買い求めてきた私の蔵書もかなりの量となりました。昭和40年代の小型の全集、その後の校本は2セット、1セットは全巻、もう1セットは2冊が欠品。最新の「新校本」全巻。昭和30年代の筑摩の全集分は別巻のみ所有。戦後すぐ発刊の「読書組合版」は10巻までの予定?が、途中で中止になったようです。これは6冊ほどの程度の良くない書籍を所有。

 

 

 

 カルトナージュ装丁の普及版?用の箱を作ってみた。         昔神田で買った十字屋書店版、

 やっつけ仕事のツギハギで見栄えが良くない。            戦後発刊の通常版?1巻・5巻

 真似して「宮」のみ赤字で、「十字屋書店」と入れました。      サイズが微妙に異なる。

 気が付けば「澤」を一部「沢」としていました、迂闊でした。 

(後日慌てて1,2,3巻の背表紙を修正したが、上手く行かない

ものです。)真似はしてみたが、大きさも定まらず滑るように

本が入らない。

(後日、「宮沢」を「宮澤」に一部修正しました。)写真も交換。

 

 ヒマなので、じっくりと読み進めたいとは思っていますが、気分屋ですので急に気が変わるかも。

宮沢賢治は偉大過ぎて、宗教・農学・地質学・化学・天文学等々世界が広すぎて、感想も何も未だに書けませんが、付き合い初めて50年以上、私の人生には多大の影響がありました。何しろ、学校では勉強・研究と言うものは全くしませんでしたが、思いもしなかった農芸化学科入学、その同級生の皆が嫌った土壌肥料専攻室に成り行きで所属してしまいました。学校では全く勉強しなかった分、今更勉学に励んでいます。

 折しも、賢治所有のチェロを製作したとされる、「鈴木バイオリン製作所」が名古屋市から近くの発祥の地・大府市に移転しました。あの「セロ弾きのゴーシュ」に出て来るチェロは、元は親友で女学校の音楽教師、藤原嘉藤治さん所有の「穴の開いたチェロ」で、元の所有者は映画館の楽士であったとか、まるで「ゴーシュ」そのままです。しかも「ゴーシュ」とはフランス語で Gauche(下手な、不器用な)と言う意味だとか。ちなみに藤原嘉治さんは戦後農地改革に取り組み成果を挙げています。

 病に斃れた賢治所有の鈴木バイオリン製のチェロを、藤原さんの穴の開いた中古のセロと交換したが為、戦災を逃れ今に残ります。片や藤原さんから賢治に渡った穴の開いたチェロは1945年の花巻空襲で焼失。世の中には偶然が、ままあるものなのですね。このセロが戦後、藤原嘉藤治さんから宮澤賢治記念館に寄贈?され、元は賢治所有のチェロが今も現存しているとか。

一度、賢治記念館を訪問、とは思うのですが中々実現しません。倅に「賢治」の名を頂きましたので、お礼の意味もあります。