コマオは短く、タクシーの運転手に行き先を告げ、座席に深く体を落とした。
運転手は発車しますと言った。
これから夜が来る。
夏至を過ぎた短い夜が来る。
コマオはこれからの事をぼんやりと考え、すぐに止めた。
ーぼちぼちやるか。
答えはそれだけで十分だった。
窓から流れる景色を眺めていると、運転手が口を開いた。
「私も長くこの仕事をやってますとね、たまにいらっしゃるんですよ」
コマオは黙って話を聞く。
「ピリオドの向こう側は2回目だなぁ。前は確か30年前だったなぁ」
ミラー越しにコマオと運転手の目が合った。
「うん、やはり、よく似ていらっしゃる。30年前のその人は、あなたのお父さんですよ、コマオさん」
コマオは驚きを隠せなかった。
「僕を、僕の父を知っているんですか」
ええ、もちろんと運転手は笑い、続けて、高速を使いますと言った。
なんてアホみたいな妄想をするのは暇だからだ。
現在、コマオは帰宅中である。
事故で電車が進んだり止まったりを繰り返している。
こないだ生まれた赤ちゃんは無事に退院した。
やっと名前が決まって、保険証と児童手当の申請をしなければならない。
毎度毎度、これらの手続きは父親として最初の仕事である。
だが、安心ばかりもしていられない。
赤ちゃんは入院中から黄疸による光線治療をされており、明日の受診による結果次第では再入院もあり得る。
明日の検査を無事に終え、週末に抱っこ出来るよう祈ってます。