コマオと嫁はそれぞれ彼女との日々を思い返していた。
コマオは現在、いつものように風邪をこじらせている。
先週の土曜日には回復する予定であったが、起床と同時に悪化に気づき、健康保険証を握って闇医者を訪ねた。
土曜日は午前診のみなので、待合室は賑わっている。
しかし、コマオは上の空のようだ。
そして、嫁もその頃、夜勤明けで家事をしていたが、気持ちは作業と離れた場所にあっただろう。
コマオが五日分の内服薬を持ち帰ると、嫁は洗濯物を干していた。
15時からのアウェイをテレビで観るため、少し寝ておきなさいとコマオは嫁に言い、嫁は素直にそれに従った。
お互いに元気がないのは風邪や仕事の疲れが原因ではない。
その日の未明、コマオと嫁が大好きなお婆さんが息を引き取った。
いち職員として利用者を贔屓してはならないが、彼女はコマオらにとって本当に大好きなお婆さんであった。
彼女と嫁は5、6年の付き合いになる。
生涯独身の彼女は嫁を可愛がった。
嫁が退職し、コマオが職務を引き継ぐとそのほうが早いからという理由で、彼女はコマオの事を嫁の名で呼んだ。
彼女はコマオらの入籍を祝ってくれた。
仕事中、コマオは彼女に会う度、嫁を大事にしてやってほしいと言われた。
何度も何度も言われた。
土曜日は彼女の誕生日だった。
昼ご飯を一緒に食べようと、夜勤明けの嫁は計画し、前日にそごうで和菓子を購入した。
しかし、和菓子はお供え物になってしまった。
闇医者からの内服薬が効果を発揮し始め、夜になって咳の落ち着いたコマオは嫁に運転してもらい、彼女の眠る葬祭会館を訪ねた。
夜分遅く、お通夜は終わり、親族の方もお帰りになっていた。
施錠されていたが、親族の方に連絡すると駆けつけてくれた。
遺影は大分昔の写真で彼女の生前からの希望だったらしい。
今よりふっくらして若かった。
棺に眠る彼女は穏やかなお顔だった。
コマオらは大事に手をあわせ、ご冥福をお祈りした。