コマオが寝床に到着すると、そこはしんと静まりかえっていた。
切れかけた台所の蛍光灯と春のいたずらな風が窓をばしばしやるのでコマオは少しびくっとした。
今日は嫁もお休みをいただいているが、あいにく同僚のY田さんと映画館に出かけている。
テーブルにはY田さんが置いて行ったであろうパンケーキが3つ並んでいた。
Y田さんはコマオがこれらのパンケーキ好きであることを熟知している。
中でもチーズケーキが大好物であることを嫁よりも深く深く理解していると思われる。
ともだちコレクションではコマオとY田さんは夫婦である。
そういった関係である。
とにかく、コマオはひとりぼっちのやるせなさに対し、パンケーキを食いながらアメブロにぶつけようと決心した。
先日の話である。
コマオはその日、17時半にタイムカードを切り、研究発表の抄録作成に励んでいた。
するとS野事務長が現れ、コマオに「どうかね?」と話しかけてきた。
差し入れの缶コーヒーくらい持って来いとはさすがに言えず、ぼちぼちですと返事をしておいた。
しばらくするとYさんも加わり、話題は研究発表よりも今後の施設のあり方についてに変わる。
S野事務長はグループの関西を任されている人なので、思い切ってコマオは居宅支援事業所の紹介を求めた。
「東京に居宅できるけど、行くか?」
コマオは呆気にとられた。
同時に怖くなった。
コマオはアラサーにして京都、大阪、兵庫など関西以外の土地で暮らしたことがない。
7泊8日の新婚旅行も正直きつかった。
よりによって大都会東京。
「ちょっと待ってください」
焦ったコマオはこれ以上の返事ができなかった。