夜勤明け、コマオは嫁のいない寝床で自慢のノートPCを開き、お古のデスクトップからデータのお引越しをこつこつこなしていた。
こつこつしている内にどうも前髪が気になり出したコマオは、行きつけの美容院にカットの予約を入れた。
担当はもちろん古嶋。
彼以外にはありえない。
本当は13時に美容院へ行きカットのみで手早く済まし、本屋さんをプラプラした後14時半には寝床へ戻りたいコマオであったが、古嶋には古嶋の都合、主に昼休憩がある。
あちらはコマオの希望を拒否し、13時40分という何とも中途半端な時間を逆に指定してきた。
それでも古嶋以外にコマオの髪の毛を整えれる人間はおらず、コマオは承知せざるを得なかった。
データのお引越しも残すところiTunesのみとなり、ひと段落着いたコマオは美容院へ走る。
係りの者に席へ案内され、男心をくすぐる雑貨マガジンをパラパラと眺めていると古嶋が現れた。
コマオの知っている古嶋は古着を着ていて、頭はアフロに近いパーマであり、顎鬚が少しうるさいぽっちゃりさんである。
しかし、今、鏡の中にいる古嶋はお洒落なハットをかぶり、水色のシャツにネクタイを締めてベストを羽織り、髭を整えて黒縁の眼鏡をかけていた。
しかも、ハットの中の髪の毛は、おそらく、ストレートだ。
古嶋は知らぬうちに売れっ子になっていたようだ。
もはやコマオだけの古嶋ではない。
だが、古嶋以外にコマオを男前にできる人間は、今のところ世界中探してもいない。
コマオは古嶋が独立なんかしてどこか遠くへ行きやしないか不安でおちおち眠れない。