植物の香りで町が包まれている。
季節が移り変わる頃、コマオはいつも懐かしさを感じる。
昨日の雨天で冷えた身体は、今日、穏やかな春の気候に包まれて軽々しい。
コマオは髪を切った。
コマオは三ヶ月に一度の間隔でカットをしてもらう。
いつも通り、休日のコマオは午前中に掃除や洗濯、洗い物を片付けて美容院に予約の電話をかける。
二年くらい通い続けている美容院だが、今回は初めて担当者を指名した。
古嶋というプチおデブさんである。
この男、プチおデブさんだが腕はいい。
コマオは勝手にそう思っている。
コマオの髪型はいつも決まってミディアムだ。
前髪は目にかかるかかからないか程度、後ろはうなじが隠れるくらい、そして二十数年来、コマオの耳を全体で見た者はいない。
ロングにもショートにも、ましてや坊主にもする気はない。
ちょうど4年前にパーマを生まれて初めて経験したが、それがトラウマでもう二度とどの美容院にも注文することはないだろう。
髪を切ったコマオは身も心も軽くなった気分でいる。
約30分でカットを終え、お支払いする段階になってお金がないことに気が付く。
今月はまだ相方からお小遣いを頂いていなかった。
どうしようもないコマオは断腸の思いでクレジットカードを古嶋に差し出す。
無益なトラブルを回避するため、できればカードを使いたくはないし、使ってもばれずに済ませたい。
来月、コマオは相方よりも先に郵便受けからクレジットカード使用の明細を奪取しなければならない。