「私もあの人に会いたくなっちゃったわ」

 

坤成殿を辞したウンスはぽつりとつぶやいた。

数時間前に別れたばかりなのに、お役目が終われば会えるのに、それでも顔が見たくて仕方なかった。

おかしいわよね、と内心、自分にツッコミを入れながらも典医寺に戻る道中、キョロキョロとその姿を探してしまう。


この広い皇宮じゃ会えるわけないか、と諦めて典医寺に戻ろうとした時、何かに呼ばれた気がして振り返ってみると中庭を挟んだ先の回廊にヨンの姿を見つけた。

その瞬間、ウンスの胸の内側が甘く疼く。

 

隊員たちに何やら指示を出しているヨンはウンスといる時とはまた違った表情を見せていて、怒ったような表情や険しそうな表情、ちょっと不機嫌そうな表情さえも凜々しくて見惚れてしまう。

 

迂達赤隊長の頃から、隊員たちに指示する姿やその仕事振りは度々目にしてはいるが、普段、ウンスがあまり知らない隊長――今は大護軍という役職だが、その姿はウンスの目に新鮮に映った。
一時は迂達赤に入隊してあの人の直属の部下?になった時もあったが、今思えば貴重な体験をしたものだと今更ながらに思った。

いきなりユ・ウンスなんて名前を呼ばれてびっくりしたこともあったっけ、とウンスは昔を思い返した。

 

あの頃は、あの人のそばにいたいのにこの地に残る決心できなかったり、毒のこともあって、あの人への想いを諦めなければいけないと思ったこともあった。
それでもあの人への想いは止まらなかった。

 

まだあの人への想いを自覚する前。
ううん、本当は気づいてたのに気づいてないふりしてただけ。
その頃から、あの人のことを目で追うのが当たり前になっていた。
あの人は今何を考えて、何を思っているのか、あの人の目に私はどう映っているのか。
あの人のことが知りたくて、体中の神経があの人の方へ向いてしまう。
もうしないと決めても、身体は正直で、無意識のうちにあの人を探してた。

あの漆黒の瞳に真っ直ぐに見つめられると息苦しくて。
あの人の声が聞きたくてつい口数が多くなって。
あの人の誠実さ、あの人の困った目、あの人のすべてに心を奪われていった。

一度目に入ったらもう離せなくて、抑えきれない気持ちが、体中から溢れてしまう。
そばにいても、いなくても無性に恋しくて、切ない。

 

今でもそれは変わっていない。
遠くからすらりとした彼の姿を見つめていると、あの頃を思い出して今でも無性に心が締め付けられた。
あの人への恋慕で。

「医仙様?」

護衛についていた武閣氏から声がかかり、ウンスははっと我に返った。

「……え? あ、何でもないわ。行きましょう」

高鳴った胸を抑えきれぬまま、ウンスはヨンから視線を外して典医寺へと歩みを進めた。

 

 


 


その日の夜。
就寝前に肌や髪の手入れをしながら、ウンスは昼間、王妃とした話をヨンに聴かせていた。

「その時に助けられてからずっと王様を想っていたんですって。10年以上もよ?素敵よね」

王様と王妃様の話をするなど恐れ多いと思いながらも、ヨンはウンスの話を聞き、王様と王妃様を元からお連れする当時、二人の気持ちが読み解けなかったことを思い出した。

二人が不仲だと言うことは聞いていた。
実際にお見かけした二人も目を合わせることも、まともに会話することもなかった。
ゆえに、二人の婚姻は元の魏王が身内を高麗王室に送り込むためなのではないかと考えを巡らせたこともあった。
でなければ、大事な娘を高麗に差し出すはずがないと。
だが、よくよく二人を見ていると、王妃の王を見る目は案じるような色が見え、王の王妃を見る目はいつも王妃の目に自分がどう映るのかを案じていた。
二人を見ているうちにヨンはある疑念が生まれた。
この二人は想い合っているのではないだろうかと。
確かめたことはなかったが、恐らくヨンの読みは外れていない。
そして今こうしてウンスの話を聞いて全てが腑に落ちた。

そんなことを胸の内で考えていると、寝支度を終えたウンスが、すでに寝台の上でくつろいでいたヨンの隣にするりと入り込み、その身にぎゅっと抱きついてくる。


「イムジャ?」
「今日ね、王妃様の回診の帰り貴方を見かけたわ」
「声をかけてくださればよかったのに」
「だってお役目中だったもの。こ~んな怖い顔して部下に指示してるから、声かけそびれちゃったわ」

 

ヨンの物真似のつもりなのかウンスが目を吊り上げて見せる。

ウンスなりに怖い顔を表しているのだろうが、ヨンからしたらどんな表情も愛らしい。

そんなヨンの気持ちはつゆ知らず、ウンスは話を続けた。

 

「なんてね、冗談よ、冗談。貴方のこと見てたらなんだか昔を思い出して、無性に貴方が恋しくなっちゃった。あの頃はこうして甘えることなんてできなかったでしょ?」

 

あの頃、我慢していたのは己の方だ。

共寝をしても柔らかいその手を握るのみ。

だが、今はこうして堂々とその身体を抱きしめることができる。

その幸福を改めて噛みしめながら、ヨンはウンスの身体を強く抱きしめた。

 

「ならば今宵は、存分に甘えてくだされ」

 

え?とウンスが聞き返す間も無くウンスの身体を反転させると、ヨンはその上に覆いかぶさった。

 

「あの、今日も……するの?」

 

ウンスは少しの戸惑いと照れを含んだ視線をヨンに向けた。

 

「嫌ですか?」

「嫌ではないけど……」

 

これまでの経験上、ヨンに抱かれて一度で済んだ夜はそう多くない。
大抵は二度三度、あるいはそれ以上貫かれて、意識を飛ばすように眠りにつくのが常だった。時には朝方まで抱かれることもある。

これまではお役目もなかったのでそれでもよかったが、これからはそうはいかない。

 

「けど?」

「明日もお役目があるのよ?」

「存知ております」

「だから……お手柔らかに、お願いします」

 

微かに頬を染めて告げてくるウンスにヨンは口元を綻ばせると、その愛らしい唇を塞ぎ、薄い夜着に手をかけた。
 

 

 

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***

 

果たしてウンスの運命はいかに・・・?笑

 

王様と王妃様のことだけじゃなくても

ヨンはよく周りを見てるなぁとドラマや小説を見てて思います。

そして勘も鋭い!

だからウンスと出会った時もビビッと来たんだろうけどね( *´艸`)