「お初にお目にかかります。某はアン・ジェと申します」
「初めまして、ユ・ウンスです」
案内された酒幕の個室。
ヨンの隣にウンスが、卓を挟んで二人の向かいにアン・ジェが座っている。
「4年前よりお噂は伺おうておりました。ですが、こやつが会わせてくれなかったのです」
そうなの?とウンスがヨンを見る。
「会わせる由がなかった」
「実に心の狭い男だ」
そのやりとりを見ていたウンスは、アン・ジェの遠慮のない物言いに目を丸くした。
「二人はどういう間柄なんです?」
「昔馴染です」
「腐れ縁です」
二人が同じタイミングで言うので、ウンスは思わず笑ってしまった。
どうりで気安い関係なわけだ。
身内のチェ尚宮やマンボ兄妹などを除き、ヨンにズバズバと物を言える人は珍しい。
昔から知っている間柄ならば納得だ。
互いの自己紹介から始まり、アン・ジェの仕事や皇宮の話、ヨンとアン・ジェの昔話など、特にアン・ジェが話してくれるヨンの昔話にウンスは興味津々だ。
お酒と料理をつまみながらそんな他愛もない話で盛り上がる。
盛り上がるのは専らウンスとアン・ジェだが、ヨンも気心知れた仲、二人ほどではないがいつも以上に口数が多くなった。
そんなヨンの様子をウンスはもの珍し気に見ていた。
迂達赤の部下たちと接するのとも、手裏房たちと接するのともまた違う。
言わばプライベートを知っている同年代ならではの気安い態度を見せるヨンの姿はウンスの目に新鮮に映った。
ヨンの新しい一面が見られて、貴重な昔話も聞けて、さらに目の前には大好きなお酒と美味しい料理。
ウンスは最高に気分が良かった。
いい感じに酒が入ってくると話の内容も徐々に遠慮がないものになっていく。
「重臣たちの前で接吻をかましたと聞いた時はやっちまったなと思ったもんです。王族の婚約者に手を出したとあれば」
「アン・ジェ!」
「そんなこともあったわよね〜!」
と酒が入り気分の良くなったウンスは呑気に笑った。
「笑い事ではありませぬ。あの時、俺がどのような気持ちで……」
「どんな気持ちだったの?」
「俺も知りたい」
二人にじっと見つめられたヨンは口をつぐみ、逃げるように席を立った。
「ちょっとぉ、どこ行くの~?」
「便所です」
「あ、そう。いってらっしゃい」
「アン・ジェ、何もするなよ」
アン・ジェは了解の意を込めて手を振った。
過保護なやつ、と思いながら、ちらとウンスを見て、確かにそうなる気持ちもわからなくはないとアン・ジェは思った。
美しい容貌はさることながら、明る笑い声は鈴のようで、ころころ変わる表情は愛らしく見ていて飽きることはない。
誰にも見せず隠しておきたいという気持ちはわかる気がする。
「あやつのどこが良かったんです?」
「う~ん、たくさんあって困っちゃうけど……そうねぇ、顔はそこそこ良いかも」
「確かに美丈夫ということは認めましょう。癪ですが」
「それにとっても強い」
「大護軍を拝命するほどですから」
「女は強い男が好きでしょ?」
「いかにも」
「でも何よりも大事なのはここよ」
ウンスは自分の左胸、心臓の上に手をあてた。
「心よ」
「心?」
「ええ、そう。あの人を一文字で表すとしたら、『義』かしらね。何よりも信義を重んじる。一度交わした約束は必ず守る。命よりも約束が大事な人。誠実で嘘が嫌いで、高麗の武士であることを誇りに思ってる。あと、守りたがり?」
「よくご存知で」
「私とあの人、出会いは最悪だったの。学会の発表の場にいきなり現れて私のプレゼンを台無しにした挙句、何の説明もないまま患者を治療してくださいって。最初は頭のおかしい人かと思ったわ」
「頭のおかしい……」
あの男をそのように思うのも、言えるのも、この人だけだとアン・ジェはさらにウンスに対して興味が湧いた。
「それだけじゃないわ。あの人、私の目の前で人を斬ったの。私の国では、武器を持っている人なんてほんの一部の人だけ。人を殺せば罪に問われる世界なの。どんな理由があってもね。生きているうちに人が死ぬところ見るなんて滅多にないわ」
「ほお」
「でもこの世界はそうじゃないわ。簡単に人の命が失われていく。そんな世界に無理やり連れて来られて、わけもわからないまま手術させられて。気がつけば命まで狙われて、何度も危ない目に遭ったわ」
「聞き及んでおります」
「その度にあの人は私を守ってくれた。私のせいで酷い目にあったり、捕まったり、私を利用しようとする人たちから無茶な要求されたり、命の危険があっても、あの人はいつも助けに来てくれた。そばにいてくれたわ。そうしていくうちに元の世界に帰りたいっていう気持ちより、あの人のそばにいたいっていう気持ちが強くなっていった。あの人も同じ気持ちでいてくれて……だからあの人のそばにいるって決めたの。あの人が私を守ってくれるように、私があの人を守るわ。あの人を傷つける人は誰であろうと許さないわ」
「はははっ、あやつが惚れるわけだ。あやつを守るなんて言うのは貴女くらいだ。貴女が戻ってきてくれてよかった。流石にあやつが気の毒になったからな。あやつをよろしく頼みます」
「もちろんよ!」
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ついにウンスとアン・ジェのご対面~!
いきなりチェ・ヨンさんは逃げてしまいましたが(笑)
まぁ、そこはアン・ジェさんを信用しているからこそでしょうけど。
もう1話、3人の飲み会にお付き合いください〜
