ウンスは数日前からお役目の合間や帰宅後に招待状作りを進めていた。
PCもない時代、作業はすべて手書き。
それも書き慣れたハングルではなく漢字。
以前よりもだいぶ書けるようになったものの、画数が多い字はどうしても不格好になってしまう。
そのため招待状の下書きはウンスが行い、清書はヨンにお願いしていた。
招待客は数十人、そこそこの作業量ではあったが、それもようやく終わりが見えてきた。
ウンスは、流麗な筆運びで力強い文字を記していくヨンの横顔を隣でじっと見つめていた。
ウンスは剣を持つヨンも好きだが、文字を書くヨンの姿も好きだ。
姿勢良くぴんと伸びた背筋は大きく立派で、筆を持つ指先は繊細で美しく、そしてどことなくセクシーだ。
何をさせても絵になるわね、とウンスは感心しながらその姿に見惚れていると、ヨンがふとウンスを見た。
「そのように熱心に見つめられるとちと照れます」
「だって綺麗なんだもん、貴方」
「……」
男に綺麗と言われても……
イムジャの方が綺麗です。
そう思うが、それは口に出さない。
「終わりました」
ヨンは筆を置くとウンスに席を譲った。
今度はウンスが筆をとり、最後に自分の名前を書き記す。
崔螢
柳恩修
二人の名前を最後に添えて、遂に招待状が完成した。
「できたー!」
並ぶ二人の名前にヨンもウンスも感無量になる。
「早速、明日から配りに行きましょう」
*
「皆、いるかしら?」
まず二人が訪ねたのは、迂達赤兵営。
ウンスとヨンが兵営の庭に顔を出すと、二人の存在に真っ先に気づいたのはテマンだった。
「大護軍!医仙様!」
テマンは声を上げ、嬉しそうに二人に駆け寄ってくる。
ちょうど鍛錬を見ていたチュンソクとトクマンも二人の存在に気づいて二人の元へと駆けつけてきた。
大護軍と医仙の登場に他の隊員たちもにわかに色めきだつ。
「お揃いで如何されましたか?」
迂達赤を代表してチュンソクが問いかける。
「今日は披露宴の招待状を持ってきたのよ」
「ひろうえん、ですか?」
初めて耳にする単語に、その場にいる者たちは首をかしげた。
「そう、披露宴。婚儀の後にお世話になった人たちを招いて、二人が夫婦になりましたって、お披露目をする宴をするの。迂達赤たちのみんな、特にチュンソクさんやトクマンさんには昔からお世話になってるから、ぜひ来てほしいわ」
「もちろん伺わせていただきます!」
威勢良く答えたのはトクマン。
「お料理もたくさん用意するから楽しみにしててね」
「はい!」
「くれぐれも皇宮の守りに不備がないようにしろ」
「はい!!」
二人から招待状をもらった迂達赤の面々は一生の宝物にします、と感動して涙した。
この場に不在の者にはチュンソクから渡してもらうことにして、最後にテマンに向き直った。
「テマンさんは、婚儀にも参列してちょうだい。貴方はヨンの弟みたいなものなんだから、しっかり兄の晴姿は見届けなきゃ、ね?」
ウンスの言葉にテマンはヨンの顔をちらっと窺った。
そんなテマンの頭にヨンはポンと手を置く。
テマンの目に熱いものが込み上げる。
それに、とウンスは続けた。
「屋敷にだっていつ帰ってきてもいいのよ」
ヨンとウンスは屋敷に住むようテマンに言ったのだが、当の本人は迂達赤兵舎が落ち着くとこれまで通り兵舎で寝泊まりしていた。
兵舎が落ち着くというのは嘘ではないが、二人の邪魔をしてはいけないという思いも少なからずあった。
ヨンは'テマンの意思を尊重しながらもいつでも戻れる家があることを忘れるな、と屋敷の敷地内に準備したテマンの住屋はそのまま残していた。
「はい……」
「それじゃあ、私たちはこれで。皆鍛錬がんばってね」
次に向かったのはウンスの職場である典医寺。
そこでチャン侍医とトギに招待状を渡す。
「ご招きいただきありがとうございます。ぜひ伺わせていただきます」
チャン侍医の言葉にトギも大きく頷いている。
「チャン・ビン先生にも見届けてほしかったわ……」
「そのお気持ちだけで十分喜んでいることでしょう。お二人のことはとても大事な友人だと兄の個人的な日誌に書かれていましたから」
そして大層手のかかる二人だとも書かれていたのだが、それは内緒だ。
「それから大変興味深い内容も書かれておりましたよ」
「興味深いって……どんなことが書かれてたんですか?」
チャン侍医は意味深に笑みを浮かべた。
「内容については折を見てお話ししましょう。ともあれお二人が夫婦になると聞けば、兄も大変喜ぶでしょう」
「だと嬉しいわ。時間ができたらチャン先生のお墓参りもしたいわ。ちゃんと報告したいもの」
「兄もさぞ喜ぶでしょう」
「それじゃ、チャン先生、トギ、当日はよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「あとアン・ジェさんと武閣氏の皆に渡したら戻ってきますね」
「わかりました。患者もおりませぬゆえ、急がずともよろしいですよ」
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