婚儀の日が、日に日に近づいてくる。
ヨンの母が着た婚礼衣装の手直しも数日前に終わり、その衣装はヨンの衣装と共に屋敷の一室に衣桁に掛けられていた。

「またこちらに?」

 

湯浴みを終えたヨンがウンスに声をかける。

 

「だって何度見ても素敵なんだもの」

 

ウンスは朝晩何度もその部屋に入り、婚礼衣装を眺めては、ほうっと感嘆の息を吐いていた。

そして今も。いつもであれば湯浴みを終えたら閨に下がるウンスだが、婚礼衣装が完成してからはヨンの湯浴みを待つ間にこの部屋に来るようになっていた。

 

「髪が濡れてるわ。風邪ひくから先に部屋に行ってて。もう少ししたら戻るから」

 

ウンスの言葉にヨンは先に寝室へ向かう。

その後ろ姿を見送って、ウンスは改めて婚礼衣装に向き直る。

 

ヨンの母も身に纏った、様々な想いが込められた婚礼衣装。
赤紅で誂えられた婚礼衣装には金糸の刺繍が煌めく、洗練された上絹仕立て。
その絹には、長寿を象徴する鶴亀や菊、富を象徴する牡丹や子孫繁栄を象徴する瓜や梅など、夫婦となる二人の新しい門出を祝うための吉祥紋様の刺繍が色鮮やかにそして精巧に施されていた。

 

それからウンスはヨンの衣装に目を向けた。

濃紺の礼服には胸に銀糸の麒麟が縫い取られており、威風堂々とした立派な紋様だ。
迂達赤の鎧にも描かれている麒麟は信義を表すとされている。

まさにチェ・ヨンにぴったりだ。

 

あの人のお母様はどんな気持ちでお父様に嫁いだのかしら?

どんなご両親だったのか今度あの人に聞いてみよう。

それにご挨拶にも行かなきゃ。

あの人に聞いてみよう。

 

と、ウンスが部屋後にしようとしたところで、部屋の棚に置かれている使い古された匣が目についた。

何かしらと開けてみると、入っていたのはヨンの私物のようだ。

難しそうな書物に包帯のような白い布。

それから黒い……布?
その布を取り出して広げると赤い三日月が刺繍された、いつか見たことのあるものだった。

 

「これって……」

 

これが何だか知らないわけではない。

あの人の許嫁だった人のもの。

 

どんな人だったの?

7年も心を凍らせるくらいあの人が好きだった人。

今も、想ってるの?

 

ウンスの中にもやもやとした何とも言えない気持ちが生まれた。

 

もう過去のことだ。

あの人は私のことを想ってくれている。

気にしてもしょうがない。

わかってるのに、一度浮かんだ感情は簡単には消えてはくれない。

聞いてもあの人に辛い過去を思い出させてしまうだけだし、あの人を困らせるだけ。

 

聞かない。聞いてはいけない。

そう自分に言い聞かせるが、気になるのが女心だ。


恋愛に関してダメだった頃の自分を思い出して、ウンスは自分の面倒臭さに嫌気がさす。

このままここで考えていてもしょうがないし、もしかしたらヨンがまた来るかもしれないと、手にしていた黒い布を匣の中に戻して、漠然とした気持ちを抱えたままヨンの待つ寝室へと向かった。

ウンスの不自然な様子はもちろんヨンにも伝わり……。

 

「イムジャ、何かあったのか?」
「……え?何もないわよ」

 「だが……」

 

鋭いヨンに目を泳がせるウンス。
何か隠していることは明白だ。

 

「俺には話せぬことですか?」
「本当になんでもないわ」
「……俺はそんなに頼りないか?」
「違うってば」
「なら何故言うてくれぬのだ」
「だから、そんなんじゃないって言ってるでしょ。婚儀の準備にちょっと疲れただけ。もう寝るね」

ウンスは逃げるように寝台に入りヨンに背を向けた。

しばらく背中にヨンの視線を感じていたが、頑ななウンスに諦めたようだ。


叔母様は言ってた。
あの人は聞けば答えるだろうって。
その通りだと思う。

私が聞けばきっとこの人は話してくれる。

隠し事も嘘も嫌いな人だもの。
だけど、この人の心は傷つかない?
過去の悲しい出来事を思い出させるんだもの。
きっと心が痛むはずよ。
私が気にしなければ良いことだもの。
明日にはちゃんと笑えるわ。

大丈夫よ、ウンス。

 

そう言い聞かせて目を閉じるウンス。

その日、二人は初めて背を向けて眠った。



翌朝。

 

「イムジャ」

 

朝餉をすませたところで、ヨンに呼ばれ顔を上げる。

 

「昨日のことは、やはり話してくれぬのですか?」
「だから……何でもないって言ってるじゃない」

 

笑ってごまかすウンスにヨンは、「そうですか」とどことなくそっけない。

でも声とは違ってその表情はなんとなく寂しそうで。
そんな顔をさせたいわけじゃないのに、私がそうさせてる。

ウンスはさらに自己嫌悪に陥った。

 

二人はぎこちなさを残したまま出仕した。

 

 

その日のお役目はぼうっとしたり、ミスを連発してしまい災難だった。
何度も溜め息をつくウンスに、周囲も何かあったのかと案じ休息を勧めてくれた。

迷惑をかけている自覚があるウンスは言葉に甘えることしにて、あの東屋に向かった。

 

「はぁ……私ったらダメね」

 

あの人の昔の婚約者の存在がチラチラと脳裏を掠める。

何度も浮かんでは消えて、消えてはまた浮かんでくる複雑な気持ち。

どうしても昔の許嫁の存在を考えると気分が沈んでしまう。
あの人から他の女の人の話なんて聞きたくないのに。
でも気になる。
でも聞いたらあの人が傷つくかもしれない。
でも、でもって女の悪いくせよね。

なんて考えてウンスは、はぁ。と再びため息を漏らした。

何よりあの人と元通りに話したい。
けど、どうすればいいのかわからない。
喧嘩してるわけでもないから、ごめんなさいと謝るのもおかしな話だし、だからと言ってその理由を言うわけにもいかない。

きっかけが掴めずウンスの心は時間が経つにつれ、重くなっていった。

 

ウンスは膝を抱えて顔を埋めた。

そんなウンスの姿を遠くからヨンが見つめていた。

 

 

 

 

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昨日修正前の状態のものが少しの間公開されていたみたいですびっくり

雑な文章のままだったので、お恥ずかしい限りです…