婚儀を目前に控え、ヨンは複雑な胸中でいた。

日付が変わってもウンスの様子は昨日と変わらぬままだった。

あの方が何かを隠しているのは明白なこと。昨日あの部屋に入る前まではいつもと変わらぬ様子だったのに、その間に何があったのか?

 

何故話してくれぬのか。

こうまでして口を閉ざすということは、何か俺に関係することのはず。

俺はそんなに信用がないのか?

それほど俺は頼りないのか?

あの方に本心を話してもらえぬことがこんなに堪えるとは。

 

ヨンは大きく息を吐くとある場所に足を向けた。

 

「医仙の様子がおかしい?昨日はいつもと変わりなかったように見えたが」

「おかしくなったのは昨夜の夜からだ」

「お前が無体を働いたとか」

何もしておらぬ!

「心当たりはないのか?」

「ああ、全く。だが、明らかに何かを隠しておる様子だ。何故言うてくれぬのか。もしや婚儀を止めるなどと」

「それはないだろう。あの方がお前を想うてくださっているのは確かだ。見ておればわかる」

「なら何故?」

「さあ。あの方のことだからお前に関係があることだろうね」

「俺もそう思う。あの方の話を聞いてやってほしい。俺には話難いことかもしれぬが、叔母上になら話すやもしれぬ。少しでもあの方の心を楽にして差し上げたい」

「わかった。私が話を聞いてみよう」

「頼む」

 

 

 

 

チェ尚宮がヨンに言われた場所に来てみると、そこには池をぼうっと眺めているウンスの姿があった。

護衛の武閣氏がチェ尚宮に気づいて一礼する。

チェ尚宮は武閣氏に少しの離れているよう指示を送るとウンスにそっと近づき、隣に腰をかけた。

 

「叔母さま」

「甥が何か粗相をしましたか?」
「え?」
「愛想をつかしましたか?」
「そんなことありません」

「婚儀を取りやめたくなったのではないかと、あやつは言うておりましたが」

「それは絶対にないです!」

「それはようございました」

「……あの人、何か言ってましたか?」

「話を聞いてやって欲しいと。貴女の気持ちを少しでも楽にしてやりたいと」

泣きそうな顔をするウンスの肩をチェ尚宮はトントンと叩いた。
こうしてこの女人の肩を叩くのは何度目だろうか、とチェ尚宮が考えていると、ウンスはポツリポツリと胸の内を零し始めた。

「あの人の許嫁だった人の形見のスカーフを見つけてしまって……」

 

それが原因かとチェ尚宮は納得した。


「どんな人だったのかなって。未だに想ってるのかなって考えたら苦しくなって。死んでしまった人を忘れることなんてできないこともわかってるんです。それにあの人が私のことを想ってくれてることはわかってます。わかってるけど、どうしても気になっちゃって。でも、そんなこと聞いたらあの人を苦しめるんじゃないかって。そう思ったら聞けなくて」
「あの時も、そして今も、貴女は甥のことばかり案じておられる。ご自分もお辛いでしょうに、己よりも甥の気持ちを大切にしてくださる。そこまで想われてヨンも幸せでしょう」

「そうでしょうか。今もあの人に心配かけているのに」
「叔母の私がいうのも何ですが、ヨンは懐の深い男です。話をしてやってください。以前にも申した通り口下手なやつゆえ、上手く話をしてやれるかはわかりませぬが、貴女が苦しんでいることの方が甥にはとっては辛いことでしょう」
「はい」



チェ尚宮に話を聞いてもらい少し心が軽くなったウンスだったが、この期に及んで許嫁だった人のことを知りたいか、知りたくないのか、自分でもよくわからなかった。


誠実なあの人が7年も心を凍らせるほど想っていたのは確かだ。
その気持ちがそう簡単になくなるとは思わない。
だから知るのが怖い。


だけど。

こんなことで悩んであの人との時間を無駄にしていいの?

ようやくあの人と一緒にいられるようになったのよ、ウンス。

そうウンスは自分を奮い立たせた。

 

 

その日の夜。

ヨンが寝所に下がったところを見計らってウンスは意を決した。

 

「今いいかしら?話したいことがあるの」
「はい」

「あのね……」

 

何とか切り出したところまでは良かったものの、その後、ウンスの言葉に詰まった。

 

「イムジャ?」

「あの……これ……、たまたま見つけて」

ウンスは赤い三日月が刺繍された黒い布をヨンに差し出した。

「これ、貴方が前に剣に巻いてた、許嫁だった人のものでしょう?」
「ご存知だったのですか?」
「前に叔母様から話を聞いたことがあったの。その人が亡くなった理由もその時に」
「貴女の様子がおかしかったのはこれが原因ですか?」

ウンスは小さく頷いた。

「貴方、死にたがってたでしょ、私と会った頃。それは許嫁の人を亡くしたからなんでしょう?長い間、その人のこと想って心を氷つかせた。そうでしょう?」
「……はい」
「貴方が想ってた人が、どんな人だったのか気になって……。でも、そんなこと聞いたら貴方はまた昔を思い出して辛いんじゃないかって。私のせいで貴方を傷つけるんじゃないかって。そう思ったら聞けなくて……ごめんなさい」

ウンスはヨンを見ていられなくなり、足元に視線を落とした。

「イムジャ」

呼ばれて顔をあげると、ヨンと目が合った。
漆黒の瞳の中に包みこむような優しさを湛えて見つめてくるヨンにウンスは胸がぎゅっと締め付けられた。

「こちらへ」

ヨンの手が差し出される。
ウンスが近寄ると、ヨンはウンスの手を取り自分の前に誘導させた。

自分の脚の間に座らせ、後ろから腕を回してすっぽりと腕の中に収めた。

「イムジャ。俺のことを思うてくれるのはありがたい。だが、それでイムジャが傷ついたり悲しむことのほうが俺には辛い。イムジャに背を向けられる方が堪える」
「ごめんなさい」
「知りたいですか?聞いても気持ちの良い話ではありませぬが」
「貴方のことだもの、知りたいわ。貴方が迷惑でなければ、だけど」
「では聞いてください。イムジャには知っていてほしい。すべてを」

ヨンは遠い記憶に思いを馳せた。

 

 

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***

 

台風の雨風が強くなってきましたね。

皆さまのお住まいは大丈夫でしょうか?

大きな被害がないことを祈るばかりです。

 

それからハワイから帰国しました!

とっても充実した誕生日&旅行になりました(*´▽`*)

この幸せな気持ちをヨンとウンスにも…!笑