「16で父を亡くした俺は赤月隊に入りました」
「赤月隊……」
「赤月隊は内功を会得し、武術を極めた者たちが、国を守るという一念の下に集結した精鋭部隊。父を失い天涯孤独となった俺にとって赤月隊は唯一の心の拠り所でした。仲間のためならば命をも惜しまぬ者たち。赤月隊は強い絆で結ばれた同志であり、そして家族でした。隊長は第二の父であり、隊員たちは皆兄弟だったのです」
「一番年下だった俺は、実の弟のように可愛がられました。兄弟子たちからは様々なことを教わり、俺がそれを修得すると自分のことのように喜んでくれた。特に、元僧侶のウォンミョンという兄弟子にはよくしてもらいました。当時の俺は、まぁいわゆる腕白坊主だったのでしょう。隊長のムン・チフの目を盗んでは、よく悪戯をしていました」
「貴方が?」
「ええ。隊長に見つかりそうになるその度に冷や汗をかきながら庇ってくれたのもウォンミョンでした」
そのウォンミョンという人を相当慕っていたのだろう、とヨンの口ぶりから窺えた。
「師や仲間たちのおかげで、父を亡くし荒んでいた心の隙間はすぐに埋められました。戦闘で紡がれた日々でしたがそれなりに充実した日々でした。何より、俺の傍らにはいつもメヒがいた」
「メヒ、さん……」
急に出てきた女性の名前にウンスの心臓は飛び跳ねた。
「出会うたのは幼き頃。声を立てず、目で笑う、優しい心根の娘でした。メヒはどんな時も一緒でした。共にいるのが当たり前で、寄りかかれば受け止め、振り向けば笑ってくれた。同い年のメヒとは、初めは友であり、同志のような関係でしたが、それが次第に妹のような存在になり、想い人に変わりました」
「……」
わかっていたけど、やっぱりヨンの口からその人の話を聞くのは嫌だった。
胸がじくじくと痛む。
「あの頃は、メヒが俺の唯一すべてでした。他の何を失っても彼女だけは失いたくないと。誰よりも大切でした」
ウンスはこれ以上聞いていたくない、この場から逃げたいと思った。
だけどそれはしてはいけないと思った。
この人は総てを隠さず正直に話してくれている。
だから自分も全力で真剣に、この人に向き合わないとこの人に失礼だ。
この人だって辛いのに、私だけ逃げるわけにはいない。
「生涯共に生きる、死ぬも生きるも一緒だと、情勢が落ち着いたら夫婦になろうと契りを交わしました。……叶うことはありませんでしたが」
あの忌まわしい出来事がヨンから全てを奪った。
ウンスを抱くヨンの腕に力が篭る。
ウンスは己の腹で組まれているヨンの手をその上からぎゅっと握った。
自らが命をかけて守ってきた王の手によって師を失った。
父のように慕っていた師を亡くした絶望は計り知れなかったが、ヨンを生かしたのは、「家族を守る」という師から与えられた最後の使命であり、約束だった。
その約束は二十二歳のヨンには重く、恐ろしく、あまりに酷だった。
「残された赤月隊は、宮中を出ることを許されなかった。赤月隊の誰か一人でも王に逆らえば、私の手で首を刎ねるよう王に命じられました」
「酷い……」
王が挿げ替わるという混乱の隙を衝き、ヨンはあらゆる手を尽くして赤月隊の隊員たちを皇宮の外へと逃がした。
だがヨンの努力は水泡と帰す。
隊長の死に絶望した仲間は多くの者が自分に耐えられず死んでいった。
そしてメヒさえも……。
隊長が死んだのはお前のせいじゃない
とにかく生きていてくれ
俺がお前を守る
俺を信じてくれ
俺を置いていかないでくれ
「何度も、言いきかせました。だが……俺の声は……届かなかった」
ウンスの瞳に涙が溢れてくる。
ヨンの思いは、仲間にも愛する人にも伝わらなかった。
それでもヨンは師との誓いを果たすために生きねばならなかった。
己ひとりになろうとも。
「イムジャに出逢うまではそのような人生でした。そうして、己の生に恥じながら生きて参りました」
ヨンの口から語られた赤月隊の最期、そしてヨン自身の過去はウンスが想像していた以上に過酷で壮絶で、そして凄惨なものだった。
ウンスは涙が止まらなかった。
大変だったわね、とか、辛かったわね、という言葉はあまりに軽く感じられるほど、重くて悲しすぎる過去。
胸が絞られる思いだった。
この人がどれほど辛く、悲しい思いをしてきたのか。
「ごめんなさい、辛い記憶を思い出させて。話してくれてありがとう。それから……」
ウンスは身体を反転させると胸に包み込むようにヨンの頭を抱きしめた。
「生きていてくれて、ありがとう」
ウンスの胸元にじわりと生温かいものが広がる。
大きな体のこの人が小さく見えて、今のヨンが居なくなってしまわない様にヨンを抱く腕に力を込めた。
もうこれ以上、この人から何も奪わないで、と祈らずにはいられない。
もうこれ以上、悲しい思いをしてほしくない、させたくない。
絶対にこの人をひとりにしない。
私がこの人のそばにいて、この人を守る。
すべての悲しみは拭えなくても、これからは私も一緒に受け止めるわ。
あなたの苦しみも、悲しみも、痛みも、すべて。
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ヨンの過去に触れるとどうしてもシリアスになってしまいます(ノД`)
書いてる方も辛いですが、ウンスに思いっきり幸せにしてもらって~
と思いながら書いてます。ヨンのことはウンス頼みですw
