高く澄み渡った秋空の下、赤や黄に色を変えた葉が彩る山道をヨンとウンスは手を繋いで歩いていた。
道がひらけた先に現れたのは立派な寺。
二人はチェ家の菩提寺を訪れていた。
婚儀の前にヨンの両親へ挨拶がしたいとウンスのたっての願いで、ヨンは17年ぶりに両親が眠っているその場所へ足を運んだ。
ヨンはウンスの心遣いが有り難く嬉しかった。
「和尚様、チェ家のヨンでございます。ご無沙汰しております」
「おお、あの時の少年か。随分と立派になったのう」
「父の法要ではお世話になりました。明後日はよろしくお願いします」
「ああ、任せなさい」
和尚は穏やかな笑みを浮かべて、頭を下げるヨンを見つめた。
それから和尚はヨンの隣にいるウンスに目を向けた。
「大層美しい女人じゃのう。まるで天女のようじゃ。こちらが?」
「はい、妻となる女人、ユ・ウンスです」
「初めまして、ユ・ウンスです。明後日の婚儀はどうぞよろしくお願いします」
「うむ。婚儀というものは、2人の縁は前世からの因縁であり、先祖の慈悲によるもの、という仏教の教えに基づき執り行う。仏様とご先祖様にその因縁を報告し、感謝の気持ちを伝えることで、来世までの結びつきを誓う儀式じゃ。二人の巡り合わせもご先祖の慈悲によるもの。確かとご先祖にご報告仕ろう」
よろしくお願いします、と二人揃って深々と頭を垂れた。
「して今日は如何した?」
「父と母に報告に参りました」
「それはそれは、お父上もお母上もさぞお喜びになるじゃろう。ウォンジク殿とチ夫人は仲睦まじい夫婦だったゆえ、今頃、あの世でも仲睦まじく過ごしておるじゃろうて。ゆっくり話されよ」
そう言って合掌する和尚に頭を下げ、二人はヨンの両親が眠る墓に向かった。
綺麗に整えられている墓前に持ってきた花を供え、手を合わせる。
ウンスはそっと目を閉じ、心の中で静かに語りかけた。
お父様、お母様
初めまして、ユ・ウンスと申します。
ご縁があり、チェ・ヨンさんと婚姻を結ぶことになりました。
チェ・ヨンさんと出逢わせてくださったこと、とても感謝しています。
信じられないかもしれませんが、私はこの時代の人間ではありません。
600年以上の時を超えて、チェ・ヨンさんと出会いました。
この時代に来た時は大変なことがたくさんあって、何度も危険な目に遭いました。
その度にチェ・ヨンさんが私を守ってくれてました。
そうしているうちにチェ・ヨンさんに惹かれ、この人と共に生きていきたいと思うようになりました。
チェ・ヨンさんから、そばにいてほしい、この地で共に生きてほしいと言われた時は、もう嬉しくて、嬉しくて。
口下手な彼が想いを告げてくれた時のことは今でも覚えてます。
お父様、お母様が愛情いっぱいに育ててくれたあの人はとても優しくて素敵な人です。
みんなが彼を慕っています。
そんな彼を私もそばで支えていきたい。
いつも私を守ってくれる彼を私も守りたい。
彼をもうひとりにしたくない。
二度と離れないとチェ・ヨンさんと約束したんです。
ここでの仕来りや習わしにはまだ不慣れで、チェ・ヨンさんには色々迷惑をかけてしまうかもしれません。
それでもチェ・ヨンさんの隣で生きていきたい。
チェ・ヨンさんを愛してるから。
彼を幸せにしてあげたいんです。
誰よりも。
未熟で頼りないかもしれませんが、チェ・ヨンさんと共に生きることをお許しください。
そして、あの人がいつも穏やかで笑っていられるようお見守りください。
目を閉じるウンスの横でヨンも同様に、両親へと語りかけた。
父上、母上
長らくご無沙汰いたしました。
今日は妻となる女人をお連れしました。
ユ・ウンス殿です。
とても優秀な医員で、優しく、聡明で、美しい方です。
見た目だけでなくその心までも。
彼女は天界の女人です。
私が無理やりこの地に攫い、この地に留めました。
そのせいで幾度も危険な目に遭わせてきました。
そんな私を彼女はいつも私を信じてくれます。
いつも私を案じ、私のことを一番に考えてくれます。
ようやく見つけた己の命よりも大切な方です。
そして、生きる意味を見失っていた私に今一度生きる意味を教えてくれた方でもあります。
私にとっての神医であり、唯一無二の女人。
この方が私の生きる意味にございます。
武士の名に懸け、この方をお守りすると誓いました。
そして生涯を共にと、約束を交わしました。
平和で便利な天界より、私を選んでくれた、私のそばにいたいと言うてくれたこの方を天界のご両親の分まで慈しみ、一生をかけて幸せにする所存です。
父上はおっしゃいましたね。
この国を家のように思えと。
一度はその考えが誤りなのではないかと思うたこともありました。
ですが、この方に出会い、父上がおっしゃったことの本当の意味がわかりました。
この方が暮らすこの国を、この方に関わるものすべてを、私は全力で守ります。
この方が笑って暮らせるよう、どうかお力をお貸しください。
ヨンは深々と墓前に頭を下げた。
*
「どんなご両親だったの?」
帰りの道中、ウンスはヨンの両親について聞いてみた。
「母は俺が物心つく前に病で亡くなったゆえあまり記憶にはありませぬが、美しく優しい女人であったと父や周囲から聞かせれておりました」
叔母さまも美しい人だって言ってたわ。
もしかしたら、この人はお母様にかもしれないわね、とウンスはなんとなく思った。
「父のことはとても尊敬しておりました。優しく穏やかで、時に厳しく、俺を正しく導いてくれた。そしていつでも国や民のことを考えておりました。父上の膝に座り、色々な話を聞くのが楽しみでした。その時、父の髭が額にかかりくすぐったかったことを今でも覚えております」
「そう」
「その時、父はこう言いました」
ヨン、お前は国をこの家のように思いなさい。
この国が日々衰えているのは、人々が皆、自分の家のことしか考えていないからだ。ヨン、お前は黄金を石のように思いなさい。
国事が日々蝕まれていくのは、人々が黄金に目を眩ませているせいだ。
ヨン、お前は武芸を習いなさい。
この国が衰退の一途を辿らせている者たちを見ながらも、この父は矢の一本も射ることができぬ。
ゆえにお前は、父のように文官として生きてきたことを嘆かぬよう、武芸の道を行きなさい。
「その言葉が、見金如石の由来だったのね。武士になったのもお父様の言葉があったから?」
「ええ。おかげで貴女に出逢えました」
「まあ、口が上手いんだから」
「事実です」
「そうだけど。でも立派なお父様だったのね」
「ええ、とても」
「きっと素敵なご両親だったんでしょうね。貴方を見てればわかるわ」
だって、とウンスはヨンの耳元に唇を寄せた。
こんなに素敵な人に育ったんだもの。
ヨンは口元に笑みを浮かべるとウンスの身体を抱き寄せその胸に抱いた。
*
ヨンは、色とりどりの花が咲き乱れるこの世の春を思わせる世界にいた。
ここはいつだったか、父上とおった場所。
もしやと思い、振り返るとそこには父の姿があった。
「父上……」
「ようやく見つけたのか」
「はい、見つけました。何物にも代えられぬ、己の命よりも大切な女人です。その方のために私は生きていきます」
「そうか。ヨンよ、立派になったな。お前は自慢の息子だ」
「父上」
「ヨン」
優しい女人の声に呼ばれたと思ったら、父の後ろから美しい女人が現れた、その女人は自然と父に寄り添った。
「母、上?」
「大きくなりましたね」
「母上…!」
記憶の中に朧げでしかなかった母が父と並んで立っている。
その時、手に温もりを感じた。
その温もりに目を向けると。
「イムジャ」
隣にはウンスの姿。
これは夢か?
そうだ、夢だったはず。
だがイムジャの手の温かさを確かに感じる。
そして甘い香りも。
そんなことを考えていると、ウンスが問いかけて来た。
「あちらが貴方の?」
「ええ、父と母です」
それからヨンは両親に向き直った。
「父上、母上、この方が私の女人です」
「初めまして、ユ・ウンスです」
「息子をよろしく頼みます」
「はい」
*
翌朝。
ヨンの腕の中で目を覚ましたウンスは昨夜見た夢の内容についてヨンに話した。
「夢の中であなたのご両親に会った気がするの」
「イムジャ、俺もです」
「え?同じ夢を見てたってこと?」
「イムジャの話を聞く限りでは」
「不思議なこともあるのね。でも貴方のご両親に会えて良かったわ!やっぱり貴方はお母様に似てるわね」
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ヨンのご両親への挨拶。
そして夢の中での対面です。
ヨンはウンスの両親に会ってるからね。
ウンスもヨンの両親に会わせてあげたいなぁと思いました。
