ウンスが寝入ってからしばらくの間、ヨンはその寝顔をじっと眺めていた。

 

明日、ようやくこの方を妻に迎える。

ずっと欲しかった、焦がれていた女人を。

明日、ようやく……


大事でたまらなかった。
俺が攫い、そして我が武士の名に懸けて帰すと約束した方。

いつか天にお帰しする方。
決して手の届かぬ方。
決して手に入らぬ方。
想うてはならぬ方。


地上の男が天女に懸想するなど許されぬ。
それなのに、どうしようもなく惹かれた。

 

いつからかメヒの顔が思い出せなくなり、その代わりに俺の頭を占めるようになったのはこの方のことだった。

隙あらばこの方のことばかり考えるようになった。

気配を探り、その姿を目で追い、泣いていないだろうかと気になって仕方なかった。

 

一度自覚してしまえば、己の心を誤魔化すことはできなかった。

だが、この想いを伝える気は毛頭なかった。

生きる世界が違うのだ。

いつか天界へ帰られる。

この方もそれを望んでいる。

束の間、そばに居られるだけで十分だ。

失うことには慣れている。

何も望まぬ。

それでもどうか……想うことだけは許してほしい。

 
そんな俺の耳に齎されたのは、あの男、徳興君との婚姻の話だった。
 

この方が他の男のものになる?

しかも相手が徳興君だと?

 

あの男には、あの男にだけは、渡さぬ。
だから……俺のそばではだめなのか。

 

もはや、この方への想いは理性では抑えきれないものになっていた。

あの男との婚姻を阻む方法が他には思いつかなかった。
許してくれるだろうか、と拒まれないだろうかと、そんなことを頭の片隅で考えたのは一瞬。
柔らかい唇の感触に、そのような考えはすぐさま霧散した。

唇を重ねた瞬間、この方への想いが一気に溢れた。
この方が目を閉じる気配がしてさらに夢中になった。

どのくらいそうしていたのかは覚えていない。

ふと我に返って身体を離して、あの方の反応を窺った。
あの方が微笑んでくれてようやく安堵した自分がいた。

 

あの男との婚姻は阻むことができたが、今度は別の問題が起こった。

 

何故毒を盛られたことを黙っていたのだ。

そんなに俺は頼りないか?

信用されていないのか?

ここに残ってもいい?
何故今なのだ。

 

問題はそれだけではなかった。

元の使臣がこの方を処刑するように言ってきた。

 

この方が助かる方法は天界へ戻る道のみ。

それなのにこの方は皇宮へ戻るという。

 

この方が何を考えているのか全くわからなかった。

それでも共に過ごすうちに幾つかわかってきたこともある。

この方は、いつも俺のことを考えてくれているということだ。
俺を案じ、俺のために怒り、俺のために泣き、俺のために笑う。
そして、俺のために命までかけてくれる。

この地に攫ってきた俺が、幾度も泣かせ、幾度も危険な目に遭わせた俺が、この地に残ってほしい、そばにいてほしいなど口が裂けても言えるはずもなかった。
だが、あの方は残りたいと言うてくれた。

 

だから俺も、手を伸ばすことにした。

生まれてきて初めて、自分のために欲を出した。

この方だけはどうしても諦めきれなかった。

 

自分の欲を出す事がこれほどまで怖いものだとは知らなかった。

この方が共に生きてくれると言うてくれた時は、ありとあらゆる喜びの感情が一瞬で身体中を駆け巡った。


天界で待っている方々がいるというのに。
それでも俺のそばにいると。
嬉しくて歓びで心が震えた。

だが、そんな欲深い俺に天罰がくだったのだ。

この方の解毒薬を失った。

俺が人を殺めている間に。

 

天界に戻れば治るというのに、この地に残り最期の時まで俺のそばにいるという。

正直、参った。
どうして俺の気持ちを考えてくださらぬのか。
目の前で貴女を失くしたら俺は生きていけぬというのに。
そこまでして俺のそばにいたいと言うてくれるその気持ちだけでもう十分だ。
だからお帰りください。

そう言うたのに、あの方はまた無謀なことをやらかした。
新たに毒を飲み今の毒を打ち消すなど、正気の沙汰とは思えぬ。
助かるかどうかもわからぬというのに。

だがこの方は強かった。
その毒を飲んで一晩中戦い毒に打ち勝った。
俺と共に生きるためだと。

どこまでも俺を信じてくれる。
どこまでも俺を想うてくれる。
俺はこの方に何をしてやれるのだろう。



俺に力がなかったせいで、あの方を守ることができなかった。

俺に残されたのは、あの方からいただいた薬瓶。

だがそれは同じものだが俺が持っていたものと別の物だった。

その薬瓶が教えてくれた。

俺の元に戻ろうとしていることを。

そうして、この方は俺の元へ戻ってきてくれた。

4年ぶりに見たこの方は、夢の中の姿と変わらず美しく
夢と違ったのは、その温もり。懐かしい花の香り。
俺を見つめる大きな瞳、そこに浮かぶ涙、声、俺の胸に飛び込んできた柔らかい身体。


そしてその日の夜、すべてを俺にくれた。
緊張に手が、体が震えた。
本当にこの手に抱いて良いのだろうか。
幻滅されないだろうか。
理性を失ってこの方を壊さないだろうか。
この方を俺の欲望で汚すことが怖かった。
俺は待つつもりだった。


痛いだろうに、健気に微笑む彼女の中は温かく俺を迎え入れてくれた。


初めて触れたこの方の身体はどこもかしこも匂い立つように美しく、この上なく甘美だった。

この方の中に入った時、あまりに狭く少し怯んだ。

このまま無理に突き入れれば壊してしまうのではないかとも。

されど優しいこの方に甘え、奥の奥まで繋がった時は心の底から歓喜に震えた。

かつてないほどの多幸感に酔いしれ、どうにかなってしまいそうだった。

――もう、俺だけのものだ。
やっと。身体も心も。決して離さない。

 

 

 

 

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***

 

ヨンのドラマからこれまでの回想でした。

これは2つ前のウンスの回想の対になる話のつもりで書いたのですが、正直upしようか迷いました。

この前のお話から婚儀に移った方が自然かなと思うし、回想ばかりだしなぁ~と思ったり(笑)

婚礼前夜はこれにて終了。

明日からはいよいよ婚儀本番です♡