ウンスが席を外してから一時。
一向に戻らないウンスを案じたヨンが様子を見に行こうと席を立ったところで客間の扉が開いた。
現れたウンスを見て、ヨンは動きを止めた。
いや動けなくなったというのが正しい。
そこには先刻までの深紅の婚礼衣装ではなく純白の衣装で身を包んだ妻の姿。
不自然なヨンの動きに、何事かと皆がヨンの視線の先を辿り、次いで目に飛び込んできたウンスの姿に一同は息を呑んで唖然となった。
静まり返る会場の中でいち早く我に返ったヨンは客間の入り口にいるウンスの元に大股で近寄り、その手を引いて客間を出た。
ウンスの口から小さな悲鳴が聞こえたが、今はそのようなことを気にしている場合ではない。
「ちょっと、いきなり何?」
「それはこちらの台詞です。何ですか、その衣装は?」
「これ、天界の婚礼衣装なの。……おかしい?」
そう言われて、ヨンは改めてウンスの姿をまじまじと見た。
真っ白な天界の婚礼衣装を身に纏ったウンスは言葉に言い表せぬほど美しかった。
白い絹が、折れそうな程に細い腰へと流れる様は優美で、身体の線に沿うような形の天界の婚礼衣装はウンスのすらりとした抜群のスタイルに際立たせていた。
先ほどの婚礼衣装と違い、胸元がすっきりした今の衣装はウンスの白い項を惜しげもなく晒し、思わずそこに口づけたくなるのをぐっと堪える。
化粧も韓紅の婚礼衣装に合わせた濃いものから薄いものに変わり、儚げな雰囲気がより一層美しくウンスを引き立てていた。
どう?とウンスに上目遣いで見つめられ、ヨンの心臓が早鐘を打つ。
ウンスの問いに答えることもできず、不器用な愚夫のようにただ黙ってウンスをじろじろ見ることしかできない。
「……やっぱり変?」
不安げな顔をしたウンスに、ヨンは「そうではない」とやっとの思いで声を絞り出した。
「……あまりにも美しくて」
「本当?」
「ああ、綺麗です。とても……」
ストレートなヨンの言葉にウンスは赤らめ、恥ずかし気に目を伏せた。
頬だけではない。
掠れたヨンの声に耳まで熱を持つ。
そんなウンスの様子はヨンの胸をざわつかせた。
このような姿の妻を他の者に見せたくない。
このまま二人きりで……
そんなヨンの心が伝わったのか、ウンスは顔を上げるとヨンの手を握った。
だが、次にウンスの口から出てきた言葉はヨンの期待を裏切るものだった。
「さ、皆待ってるわ、行きましょう」
「……」
二人が客間に戻ると、招待客たちの目は再びウンスに釘付けになった。
見たことのない真っ白な衣装は彼女の美しさを一層際立させており、その姿はまさしく天より舞い降りた天女。
それはその場にいた全員が思ったようだ。
天女だ……という囁きがどこからともなく聞こえてくる。
うっとりとしたため息や感嘆の声が方々から漏れ、若い隊員たちの中には頬を染めてウンスに見入る者もいた。
その視線が気に食わなくて、ヨンは表情を険しくした。
――やはり見せるのではなかった。
そんなヨンの心など露知らず、ウンスは朗らかな声を上げだ。
「皆さーん!ここからは天界流の婚儀を行います」
貴方はここに立って、とヨンを皆の前に立たせ、自分はヨンに向かい合って立つ。
何も聞いていないヨンは、何をするのだ?と困惑した表情でウンスを見る。
ウンスは招待客に
「いい?皆が証人だからね」
と言うと、再びヨンに向き直り、んん、と一度咳払いをする。
「チェ・ヨン」
「はい」
名前を呼ばれ、ヨンは反射的に返事をした。
「あなたは、ユ・ウンスを妻とし、健やかなる時も病める時も、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
ヨンは一切の迷いなく応えた。
力強い声には固い意志が窺える。
「私、ユ・ウンスはチェ・ヨンを夫とし、健やかなる時も病める時も、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓います」
ウンスは悪戯っぽい笑みを浮かべ目の前のヨンを見上げた。
「それでは誓いの……口づけを」
そう言ってウンスは目を閉じた。
口づけ?
ここでか?
このような大勢の目の前で?
ヨンは顔には出さなかったものの内心焦った。
だが目の前にはウンスが待っている。
こうなったら腹を括るしかない。
ヨンはウンスの細い肩に手を置き、ゆっくりと顔を近づけた。
誓いを立てた唇同士が、そっと重なり合う。
ウンスの柔らかい唇の感触に、ここが人前であることなどすっかり頭から消え失せ、ヨンは力強くウンスを抱きしめると唇を強く押し付けた。
熱く、深く、そして長い口づけ。
そこだけまるで時が止まったかのよう。
長いようで短い、短いようで長い刻。
ただ、互いの温度と、感触と、香りと、愛しさがそこにあった。
そうして永遠の愛を宣誓し、誓いの口付けが交わされた。
口付けを解いても、二人の瞳は合ったまま、互いだけを映す。
ウンスの瞳からは次々に幸せの涙が溢れた。
その涙が綺麗で、ヨンはこの一瞬を胸に焼きつけた。
次の瞬間、固唾を呑んで事の成り行きを見守っていた会場から雄叫びのような喝采と割れんばかりの拍手が起こった。
いきなり沸いた歓声に、ヨンとウンスは二人きりの世界から現実に引き戻される。
口付けに夢中になってしまったことを少し気恥ずかしく思いながらも会場に視線を向けると、皆一様に目を潤ませながらも、満面の笑みで二人に歓声と拍手を送っている。
「大護軍の元に戻ってきてくれてありがとうございます。皆、今日という日を待ち望んでおりました。本当に……本当に……」
そう話すトクマンは感極まったのか言葉に詰まった。
目を真っ赤にし、グッと涙を堪えた。
隣にいたテマンやチュンソクの目にも光るものが見える。
「隊長は4年間医仙様を想い続けてきました!!隊長を見てきた俺らは…俺らは…ああああっ」
ついにトクマンは号泣し、チュンソク、テマン、チョモも涙を浮かべ男泣き。
涙を浮かべ男泣き、他にも4年前ウンスとヨンを知る者たちは涙を浮かべている。
「みんな……」
「本当におめでとうございます!!大護軍をよろしくお願いします!!」
皆の想いにウンスの目にも涙が溢れる。
「もちろんよ!この人は私が幸せにするわ!!」
ウンスの宣言に歓喜の雄叫びが会場に沸いた。
あいつら、とヨンが不機嫌そうに低く呟く。
「良いじゃない、今日くらい。おめでたい日なんだから。でも本当にずっと待っててくれてありがとう」
ウンスはヨンに抱き着いて、ちゅっとキスをする。
それを見て、また会場が沸く。
「羨ましいいいいっ!!!!」
と、トクマンは先ほどまでの涙とは違った意味で涙を溢した。
ドッと笑が起こる会場。
チェ家の屋敷には二人の婚礼を祝福する盛大な拍手がいつまでも鳴り続けていた。
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