ウェンブリー・スタジアムに行ったのはあれが最初で最後だった。1980年代のこと。ウェンブリーといえばロンドンで一番有名な野外コンサート会場で、東京でいえば東京ドームのようなもの。
「エリック・クラプトンを聴きに行くのか?」スティーブが長髪の若者2人組に訊いた。ウェンブリーに向かう地下鉄内で、いかにもコンサートに行きそうなタイプだったからだ。
「エリック・クラプトン?」2人は目をキョトンとさせた。
「エリック・クラプトンを知らねえのか?」スティーブは声を上げた。「おまえら何歳だ」
「22」
「22か。じゃあ、しょうがねえな」
ていうか俺たちも22なんだけど、と僕は思ったが、スティーブは続けた。「俺にとっちゃなあ、クラプトンを知らねえっていうのは、ジミー・ヘンドリックスを知らねえのと一緒なんだけどな」
実のところ、僕もその日初めてスティーブから聞いてエリック・クラプトンのことを知ったのだが。
チケットはなかったのだが、スティーブは忍び込み方を知っているということだった。結局中には入れず、スタジアムの外で演奏を聴いた。
生演奏を聴いたことには変わりないのだが。
スティーブは路上でギターを弾く街頭ミュージシャンだった。80年代の若者には珍しく、60年代のメロディーばかりだった。ニューヨーク、クイーンズの出身。今頃どうしているのだろう。もう60近い。ワクチンは打ってるのかな。
エリック・クラプトン、新曲で反ワクチン思想を歌う「こんなデタラメには耐えられない」
(127) Eric Clapton - This Has Gotta Stop (Official Music Video) - YouTube
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