ヒエロス・ロコス 1 | コラム・インテリジェンス

コラム・インテリジェンス

透き通るような…心が…ほしい

友人「まさか、この町で、君が我々の知る美しい人以上の人間に出会ったというはずはないしね。」

ソクラテス「ところが、大いにそうなのだ。」

友人「なんだって?それはアテナイ人かね?よそ者かね?」

ソクラテス「よそ者だ。」

友人「どこの人だ?」

ソクラテス「アブデラの人さ。」

友人「それで君には、そのよそ者がそんなに美しく思えたのかね?あのアルキピアデスよりも美しく見えたほど?」

ソクラテス「君、最高の知を備えた者が、より美しく見えなくてどうする。」

友人「おやそれでは、ソクラテス、君はここへ来る前に、誰か智者に出会ってきたというわけなのかね?」

ソクラテス「知者も智者、当代随一の智者だ──もしプロタゴラスが最高の智者であることに、君が賛成ならね。」

友人「え、なんだって?プロタゴラスがアテナイに来ているのだって?」

ソクラテス「もう三日めになるよ。」

友人「すると、君はいま、ここに来るまであの人とずっと一緒にいたわけなのか?」

ソクラテス「そうとも。いろいろたくさんのことを、話したり聞いたりしてね。」

友人「それなら是非、さしつかえなかったら、彼と一緒にいたときの模様を、僕たちに話してくれないか。──さあ、ここに座って!」

ソクラテス「大いによかろう。聞いてくれるなら感謝したいくらいだ。」

友人「いや、こちらこそだよ!君が話してくれるというのならね!」

ソクラテス「ありがたいのはお互い様、というわけか。とにかく聞いてくれたまえ。」

 

(「プロタゴラス対話篇」プラトン)

 

プロタゴラスがアテネに滞在していることを告げたのはヒポクラテス。

現代医学の祖または医療倫理の祖、「ヒポクラテスの誓い」として有名な古代ギリシャの医師ヒポクラテス。

ヒポクラテスは若かりし頃、

プロタゴラスの教えを受けるためにはすべてを投げ出してもかまわない」と述べたとしても有名。

が、当時の彼はまだ若輩故、マンツーマンでプロタゴラスに接することを畏怖し、ソクラテスのもとへ救いを求めに来たようです。

 

ヒポクラテス「なにしろ、ソクラテス!すべての人々が口を揃えてプロタゴラスを讃え、知恵と弁論においても当代随一、彼の右に出る者はなしと言っています。

 さあすぐに、彼のところへ会いに行きましょう!さあ、すぐに参りましょう!」

(「プロタゴラス対話篇」プラトン)

 

ソクラテス「それではヒポクラテスよ。君たちがそれほどに賢者であると考えるプロタゴラスとはどのような職業でどのような人物だと考えているのだ?」

ヒポクラテス「世間で呼ばれているところでは、あの人はプロタゴラスはソフィストであるということになっています。」

ソクラテス「それではヒポクラテス、君はソフィストであるプロタゴラスから何を学ぼうとしているのか?」

ヒポクラテス「私は私自身の魂の世話、真実真理の摂理すべてをプロタゴラスから学べると信じているのです」

ソクラテス「それではヒポクラテスよ。君は君の魂のすべてを、ある一人の男──君たちの言うところのソフィストである一人の男──に委ねようとしているということ?では、そのソフィストとはそもそも何者なのか?」

ヒポクラテスソフィストとは、まさに読んで字のごとく(古代ラテン語による)、賢い事柄を知っている人、──特にプロタゴラスにおいては、ソフィストのなかでも特に、唯一無二、当代随一、最も賢い事柄すべてを知っている人──にほかなりません。」

ソクラテス「君は何故、それほどに知識と求めているのか?君は知識をどのような役に立てようというのか?」

ヒポクラテス「知識が、真実真理の摂理論理が正しい言論を産み、正しい言論こそが正しい道を我々に示してくれるものであると信じているからです。ソクラテス、ソフィストとは、人間を言論に秀でた者にする知識のすべてを持っている者であるといえるのだと思われます。」

 

(「プロタゴラス対話篇」プラトン)

 

ソクラテスは名立たるソフィストの中でも当代随一、唯一無二と謳われたプロタゴラスとの直接対決の前に、ヒポクラテスと共に、予備知識の確認、覚悟、対話のスタイル、スタンスを築き上げようとしていたようにもうかがえます。

 

タイトルの「ヒエロス・ロコス(ラテン語)」は、紀元前378年に結成された美青年で賢者で勇猛果敢、文武両道に優れし若者たちによる最強軍団の名称です。

 

そして今、我々はその百年ほど前に、ヒエロス・ロコス発祥または発足の要因あるい遠因、またはきっかけのきっかけとなった瞬間の、ヒポクラテスとソクラテス──当時随一と評された医者の卵と大哲学者との対話を覗き見ようとしているのかも知れません。

 

「ここでいうところの『雄弁家』というのはソフィストのことかと思われます。

現代は女性のソフィストが最も求められている時代であるのかも知れません。

また、ソフィストは『職業弁論術師』と訳される場合も多いようです。」

「サピエンス 19」

https://ameblo.jp/column-antithesis/entry-12326544007.html

 

「人間は万物の尺度である」(「真理論」プロタゴラス)

「キライな説教」

https://ameblo.jp/column-antithesis/entry-12534120907.html

 

「ある人間には真理であると思われることが、別の人間には虚偽に映る場合も有り得る。

 この相対主義は、何が善で何が悪かの議論が愚かしいことであると証明し、

 それはある人間、ある醜悪な人間たちが作り上げた社会という虚偽の世界の幻影に過ぎない」(「対話篇プロタゴラス」プラトン)