シンパサイザー 4 | コラム・インテリジェンス

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透き通るような…心が…ほしい

「書類を見せろ!武器のチェックのあと、デスクに座っている大使館の官僚が言いました。」
(ヴィエト・タン・ウィン「シンパサイザー」)
 
世の中に理解を超えた事象現象状況は数限りなく存在するようにも思われます。
が、自分の学習不足なのか、才能不足なのか、経験不足なのか、あるいは僕がすべてに劣っているからなのか、どうしても理解できないシーンが描かれています。
 
官僚だから「書類を見せろ!」と怒鳴れる。
彼が官僚でなかったら、今は彼に命令されている立場の将校たちと街で出会っていたら、この官僚は直ちに将校たちによってブチのめされていたことでしょう。
 
検察官は言います。
「私は絶対に許さん!私が捕まえて処罰を与えてやる!」
 
この検察官が検察官でなかったら、同じセリフを豪語できたのでしょうか。
たとえ犯罪者であっても一人の人間。
検察官が一人の人間として「許さん!」と豪語しても、犯罪者にとっては屁でもない。
 
検察官が一人の男として「捕まえ処罰を与えてやる!」と豪語しても、
彼は犯罪者にボコボコにされて、ママに言いつけるのが関の山かとも思われなくもないのです。
 
役職で、立場で威張っている男を見ていると虫唾が走ります。
 
自分が一人の男として、それだけの値打ちがあるのかどうか。
自分が一人の男として、文武両道、誰にも負けぬくらいのスキルを備えているのか否か。
 
このような自問自答を、彼らがするのかどうか、それが疑問です。
 
このような自問自答をするような男であったなら、とてもじゃないけど、自分の態度は恥ずかしくて生きていけぬと思ってしまうのがマトモな男であるとも思われなくもないのです。
 
自慢でも高慢でも何でもなく、僕自身、理解できぬこと、わからないことは多すぎるほどに兼ね備えてはおりますけど、
そのなかでも、立場だけで威張り散らかすような彼らの心魂は、僕の中では永遠の謎ともいえる不思議なのであります。
 
世に醜悪の極みと称される「スタンフォード監獄実験」以上に不快感を覚えると云ってしも良いような気もしないでもないのです。
 
「ああ、愛の道を通って行くあなた方よ。
 私の悲嘆ほど重い悲嘆があるかどうか、
 気を付けてよく見てください。」
R.W.B.ルイス「ダンテ」)
 
「恋愛遊戯」
 
「すぐ横には娼婦の一団がいました。
まるで真空パックされたかのように、ピチピチのミニスカートと網目のストッキングを身に付けています。」
(ヴィエト・タン・ウィン「シンパサイザー」)
 
これから祖国を脱出しようとしている避難民が集められている国立競技場。
戦時下で戦争終結を目前に控えた臨場感あふれる時間。
 
それでも人々は自分の身の回りの品々、大切なものを整え、身支度をして出てくる時間くらいは許されていたようです。
 
それでもそのような状況においても、娼婦たちが娼婦たち丸出しの服装で集まっていたそのわけを僕は知りたいと思いました。
 
なにも考えていなかった。他の服がなかった。あるいは如何なる時にも自分たちに相応しい服装をと心掛けた等々、いろいろと考えられる可能性はあるのかも知れません。
 
が、その服装がその場において、この状況において、自分の身を護るために、果たしてどれほど有効であるのか否か、これはだれにも予測不可能であったようにも思われなくもないのです。
 
で、真空パックのミニスカート。これの似合わない女性は少ないとも思われます。
このようなファッションは、どのような体系の女性にも、それぞれの着こなしによって、それなりのエレガンシーとスタイリッシュさは醸し出され保たれるようです。
 
が、網目のストッキング。これが難しいようにも思われます。
僕が女性であったなら、このような冒険は避けたい。
結果が大幅に違ってきてしまうような状況を、自ら創り出すような勇気とギャンブル性は、僕は持ち合わせていないようです。
 
網目のストッキングとグラサン・カチューシャ。
同じような普及率であるというデータを見たことがあります。
 
が、個人的な妄想としては、グラサン・カチューシャが最も似合う女性は、アラビアンナイトのシェヘラザード。
 
「朝でも夜話アラビアン・ナイト」
「グラサン・カチューチャな女」
 
「ボンと私は『急げ、待て』という軍隊の習慣の『待て』のほうに集中しました。これが世界中の軍隊に共通する退屈な習慣なのです。」
(ヴィエト・タン・ウィン「シンパサイザー」)
 
ボンは語り手である主人公の親友で、ヴェトナム軍の将校です。
 
軍隊の習慣にはもちろん退屈だと思われるようなものもありますが、概は合理的で実践的であるとも思われなくもないのです。
 
ここでヴィエトが取り上げたのは世間でいうところの「急がば回れ」なのかも知れません。
 
軍隊ではアタリマエに常に沈着冷静、文武両道、熟慮と機敏な行動、洞察と俊敏性が要求されるようです。
 
なので「急がば回れ」。「急げ。待て。」という情動を習慣とすべきであったのかも知れませんネ。
 
「急がない」
(バルタザール・グラシアン「賢人の知恵」)
 
「美知武習録120(バルタザール)」