上半身が絶世の美女、下半身は鳥という怪物セイレーン。
彼女の歌声は途方もなく美しく、が、その歌声を聞いた者は
けっして生きて帰ることがなかったとされているらしい。(「変身物語」オイディウス)
英雄オデッセイウスはセイレーンの歌声を一度だけでも聞いてみたいと思った。
彼は船乗りたちに自分の体をマストに縛り付けるよう命じる。
そして船乗りたちにはセイレーンの声を聞かずに済むように、
全員に耳栓をするように命じた。
彼等の船がセイレーンの住む島に近づくと、
美しくも甘美なセイレーンの歌声が聞こえてきた。
オデッセイウスはセイレーンの歌声に魅了され、
彼女のもとへと馳せ参じられるのなら、命も惜しくないと確信する。
彼は「縄を解けっ!私を縛り付けている縄を解くのだっ!」と
船乗りたちに命じるが、船乗りたちは聞こえない。耳栓をしちゃっている。
セイレーンの歌声が聞こえなくなる距離まで
遠ざかったと安心した船乗りたちは、オデッセイウスの縄を解く。
オデッセウス一行は、セイレーンの呪縛から解放されたという。
(「オデッセイア」ホメロス)
誘惑、甘美なるものも、悲しみ、苦悩も、
時として、見ない聞かない話さないが有効の手段となる場合もあるらしい。
ヒトは逃げるのではなく、対峙しながらも、頭の片隅に残したままでも、
時に無視、意地でも構わないフリをすることで、
自分自身を暗示にかけ、大難を切り抜けるワザも必要なのかもしれません。
「自分は、そのような事象に捉われるほど愚かではない」
と自分に意地でも語り掛け、自分を守ることも大切な戦略となるらしい。
が、僕は、
「自分は、そのような事象に捉われるほど愚かではない」
と念じつつも、時に
「自分は、そのような事象に捉われるほどに愚かである」
と言い訳してしまうことも多いようにも思われるのです。
セイレーンはサイレンの語源になったと言われています。