「ああ。わかっている」
「また、厄介事を増やすのか?」
「でも、反対はしねぇだろ?」
ロバートがにやりと笑う。
ウィルは手に持っていたカップの酒を煽るとおもむろに立ち上がった。
「・・先に部屋に帰っていてくれ。ルートの変更を検討する」
それだけ言うと、宿の外の闇へと一人姿を消していく。
ロバートがその後姿に持っていたカップを掲げた。
外の雨は止み始めているようだった。
4
ランタンの淡い光の中で、ヴァンサンがゆっくりとカップを傾けた。
隣のロートは大きな身体を寄せ、好奇の光を瞳に宿らせながら「それでそれで?」と話の先をせかす。
ヴァンサンがロートの身体を押しとどめながら、手元の酒瓶を傾け新たなブランデーを自分のカップに注ぐ。
カップの中で、ランタンの淡い光を受けた琥珀色の液体がヴァンサンの瞳をゆらりと映す。
外の雨はまだまだ止む気配はないようだ。
「まぁ、待ちたまえ。夜明けまでまだ時間はある。続きはゆっくりと話してあげよう・・」
「・・つまり、お前達はこの荷物を無事届ければよいわけだ」
ちょび髭の、ルキスラ正規軍の服を着た男がロバートに向かって居丈高に言う。
背は低い方ではないが、かといってぬきんでているわけでもない。しまり無く突き出た腹に性格が出ているようだと思う。
恐らくこういう輩は、襲撃があった時点で真っ先に逃げるタイプだ。
正直いけ好かない男だとロバートは思っていた。が、今の仕事はこれだけなので我慢することにする。
「この馬車の荷物は昼までに必ず届けるのだ。いいな?」
「わかっている。善処はしよう。だが、今のこのご時勢だ。何が起こるかわからん。保障は出来かねるが?」
ウィルの言葉にちょび髭は眉根を寄せると、再び居丈高に言い始める。
「わかっておらんようだな。・・いいか?これから届ける物資はただの農民に売りに行く商品とは違うのだ。そこにおられるのは、前線で活躍された部隊長様である。絶対に失礼があってはいかんのだ。何があっても必ず・・・」
「わかったって。昼までに届けりゃいいんだろ?」
ロバートが半ば呆れ顔で言う。
「ふん。わかればよいのだ。それにしても・・」
ちらり、と御者席に座るレインのほうを見やる。
「部隊長殿への献上品持参か?なかなか気が利くではないか」
「・・・献上品はあんたの名前で渡してやるから安心しろ」
ロバートが手をひらひらと振って満足そうに笑うちょび髭を追い払う。ウィルが荷台に乗り込んだのを確認すると、レインの隣に座り「はぁっ!」という掛け声とともに馬車を進ませる。
先ほどの会話が聞こえていたのだろう、レインが不安そうな顔でロバートを見ていた。
ロバートがにこりと笑うと、レインの頭をぐしゃぐしゃとかき回す。
膨れるレインをよそに、ロバートが無言のまま馬車を進ませる。
町から少し離れたところでロバートが荷台にいるウィルに声をかけた。
「ウィル、ティザの町で買った下剤、まだ残っているだろ?」
「ああ、まだあるが。どうする気だ?」
「適当に調合しておいてくれ。ちょび髭の名前で部隊長殿に渡す献上品がいるんでな」
ロバートの言葉にウィルがにやりと笑う。
「わかった」