朝、今日は晴れ。

行った事の無い道の駅へドライブに行く準備をしていると、一本の電話が鳴る。

札幌市保健福祉局だったか。ハッキリと名前は覚えていないが、石綿救済の書類はここ経由で国へ送られる。声で分かる、相手は壮年の男性だ。


「R•Y(僕のイニシャル)さんですね。書類の件なんですが、まず生年月日と現在のご年齢の確認でしたが…」


僕は聴かれたままに生年月日と年齢を答える。


「その件でですね。中皮腫と言うのは30年程の潜伏期間がある訳で、33歳のR•Yさんのは違うんじゃないかと」


“はい?”思わず聞き返した。そしてすかさずこう答えた「でも医者からはそう診断されて、それを証明する主治医の書類とCD-ROMも同封していますが」


相手はこう答える「そうですか。でも年齢がお若いので難しいと思いますよ。もしどうしても給付金をと言うなら、これも難しいでしょうけど。労災での年金もありますが、33歳じゃあね」


はらわたが煮えくり返る。なぜ、この男は僕が中皮腫である事を“間違い”という前提で話を進めるのか。

第一に、電話の向こうのこの男が決定権を持っている筈が無い。


国への申請で通らない例もあるにはあると聞くが、であれば異議申し立てや誰がどんな判断をしたのか開示請求出来るのも、再申請の要請が出来ることも知っている。


電話の男はたかだか、一時的に書類を預かるだけの分際で僕の病気に疑いをかけて来たのだ。


病気は何かの間違い?そうあって欲しいのは僕自身だ。


ふざけている。所詮はお役所仕事か。連休明けで頭が五月病にでもなっているのか、お得意の搾取の手続きは一瞬。支払う立場になった途端、書類一枚に数週間お待ち願いますと言うアレか。


無知で無礼な相手に怒りをぶつけても始まらないので、医者は確かに診断を下し証明書類等一式も送ってある旨を伝えると「そうですか。この書類は後日、国へお出ししますので」それで終わりだ。


無礼を働いた自覚が無いから謝罪も無い。


最近は、お役所仕事をする人へ、悪質なクレームをする人間やその行為を“カスハラ”などと呼び、報道番組などでも取り上げて、お客の側を問題視する傾向にあるが、相手がしっかりと対応した上で客がわがままを言って、対応してくれなければ暴言を吐いたり写真を撮って顔をネット上に晒す事があるという。それは勿論やってはいけない事だが、現実に今日僕が受けた電話の洋にカスタマー側がこちらをひたすらに不快にさせる事実も現実にある事は分かっていただきたいものだ。


せっかくのドライブ気分が台無しにされた上に、休み中の父も僕の病気や気にしているお金の事情を正しく理解してくれていない。

電話後にお金の件で少々揉めた。


怒りが頂点に達したので、何も言わずに家を出る。

予定していたドライブで気を紛らわせたかった。


スマホでGoogleマップを開き、行った事のない道の駅を検索しナビゲーションさせる。


気温もちょうど良く、いっぱいに広がる青空の下で僕の気持ちもブルーなままだった。少しも運転が楽しく無い。お気に入りの音楽も耳に入って来ない。


結局、イライラしっぱなしで道の駅に着く。

丁度駐車場に車を停めたところで電話が鳴る。

中皮腫サポートキャラバンの方からだ。


朝の電話の後で、相談をしようと電話をかけたが忙しいのか出てもらえなかった。なのでメールを送った。怒りが止まなかった事と、例の電話の男の言う様に、33歳で悪性腹膜中皮腫はあり得ないと国に判断され、国が負担してくれるはずの医療費や貰えるはずのモノも貰えなければ将来的に破産する。なら、今お金があるうちに自決を試みようと言うのと、4月に速達で出した書類だが札幌で今日確認と言う事は、国から答えが出るのは一体いつになるのか。そこをメールで尋ねた。

どう説得されようとも、国の答えが中皮腫と認めないと言うものだった場合は潔く自決する。その意思は変わらない。


サポートキャラバンの方が僕のメール内容に驚いて電話をくれたらしい。

件の札幌からの電話の話を伝えると、やはり例の電話の男の対応はおかしいとの事だ。番号を教えてくれたら、苦情を言ってあげるとも仰ってくれた。だが、自宅の固定電話で取ったので、出掛け先のiPhoneからは番号が分からなかった。


苦情の件は置いておくとして、改めて悪性腹膜中皮腫で国が認めないことや、33歳の年齢だからあり得ないなんて事も無いと教えてくれた。

万が一ダメだった場合もどう対応すべきか、またその時に教えて下さるとのことだ。


安心は出来ないがひとまずは心のつっかえ取れた。

いつも支えてくれて感謝しか無い。


せっかくのドライブが台無しにはなったが、一応道の駅内部は見て来た。

道の駅 絵本の里 けんぶち


駐車スペースは少々狭い印象だが、建物は中々広い。






お土産コーナーや、けんぶち自慢のパン屋さんやレストランは思いのほか混んでいたので、撮影はやめた。


何か食べて行きたい気もしたが、嫌な思いをした後で食欲が無い。と言うか、朝からあんな電話を受けたせいで今日1日何も食べていない。薬も飲めていない。

腹膜が痛くなって来た…。


楽しいはずの時間を、僕の貴重な1日をあの電話の男は台無しにしてくれたのだ。





道の駅の横には公園…というより散歩スペースと写真には無いが、無料のドッグランがある。



(謎に置かれた椅子…)


父親とも喧嘩したので、家に帰る足取りが重い(車だが)。


帰りの走行中に、ダッシュボードの上に吸盤で張り付けていたスマホスタンドが暑さでやられたのか、落ちてくる。

もう使い物にならない。


しっちゃかめっちゃかの一日だ。

高卒で33歳まで遊ばずずっと介護で他人に身を捧げて来た“罰ゲーム”で、悪性腹膜中皮腫に罹り、仕事を失い、お役所職員には無礼な態度を取られ、家族の理解すら得られず、ささやかな楽しみすら奪われる。


国から申請を認められなければ、有言実行あるのみだ。