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・スウェーデン生まれの伝説の大女優グレタ・ガルボの本名は、
グレタ・ロヴィッサ・グスタフソン。

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天然の冷凍庫みたいなミネソタ州の町ワバシャを舞台にした
凍結氷上の仮設ミニハウスで釣りに興じるいじわるじいさんたちの
殺し合い(?)を描く傑作コメディ「ラブリー・オールドメン」で、
ジャック・レモン演じるじいさんの役名はジョン・グスタフソンだった。

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このグスタフソンという特異に思える名前が、

カナダの国境でもある
ミネソタ州ミネアポリス出身のコーエン兄弟が、
地元ミネソタとお隣のノースダコタ州を舞台に描く
「ファーゴ」にも登場する。

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資産家老人役のハ―ヴ・プレスネルの役名が、ウェイド・グスタフソン。

グスタフソンは、実は北欧スウェーデン人のポピュラーな名前なのだ。

…というわけで、

映画「ファーゴ」は、真っ先に
その昔、寒さに強い北欧移民が永住の地を求め、
流れ流れて住みついたことが納得できるほど、
ミネソタが極寒の地であることを見せてくれる。

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実際に6月、7月のサマーシーズン以外すべて季節は冬だという。
ここに登場する果てしなき雪原は、とても美しく
同時に寂しさに包まれて寒々しく広がる…。




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●FARGO(1996・アメリカ)
監督:ジョエル・コーエン
脚本:ジョエル&イーサン・コーエン



・鬱蒼とした森林、起伏の多い野山、広大な平原、田園地帯…

都市から遠く離れて、自然の占有率が高い場所というのは、
それだけで映像に深みを持たせるものだ。

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これは、
自然の摂理が生みだす“雪”の異常な量感を利用して、
コーエン兄弟がいみじくも美しく撮りあげて見せた、

ファーゴという名の小都市で起こる
偽装誘拐事件に絡む人々の醜い争いのドラマである。

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奇異な人物を作り出すことにかけては
天下一品の技量を持つコーエン兄弟だが、
今回は、実は人の色合いが少し違う。

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コーエン作品にしては、ノーマルな人々が、
小さな手違いから、一転のっぴきならない事態に巻き込まれ、
みるみる変貌していくプロセスを追う。


しかしながら、いつもより少々ノーマルだからと言って、
あっさり手抜きなどするわけがない。

偽装誘拐を画策する自動車セールスマン(ウィリアム・H・メイシー)は、
いかにも姑息そうな落ち着きのない安手の男である。

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この男、本人としては金持ちの義父(ハ―ヴ・プレスネル)から、
大金をせしめるという大それた犯罪を思いついたつもりだろうが、
実は人様には何の影響も無いファミリー・チート(家庭内詐欺)の
レベル。

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…ただ、どこから見つけ出して来たのか頼んだ相手が悪かった。

雇われた誘拐請負人の二人組
(ピーター・ストーメア、スティーヴ・ブシェーミ)は、
あまりにもヤバ過ぎた。
もう少しまともな仕事人なら、事は思い通りに進んだはずである。

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この連中の思いも寄らぬ人格の誤作動から、
小さな詐欺事件は、しっかり人様に影響を与えながら膨張していく…。

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コーエン兄弟は、やはりここでもあっさり標準値を超えてみせる。
毎度のことながら、
おもしろがっている部分が、うれしいくらい尋常な感覚では無いのだ。

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人間に対する視点が疑念に満ちており、嘘や曖昧さをおもしろがる。
危険な空気を好み、不安な状況を溺愛する。

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公明正大な平均化されたものを見せて、
万人に受け入れてもらおうなんて一切思っていない。
そこから生まれ出た異端とも言える偏執振りが、強烈な感触をもたらす。

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だからこそ、
とりわけこの映画で記憶に残る人物は、誘拐事件の捜査にあたる
妊娠中の警察署長(フランセス・マクドーマンド)。

警察官としてごく普通に古臭い正義を信じていて、
女性として生まれ来るベビーの将来を夢見ている
“まとも”な人物である。

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突然現れる妙な旧友に口説かれても、
まともなだけに当然相手にしない。

そんな事態を理解しようともしない。

鈍感なのではない、ごくまともなのだ。

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ここに、背景として散々みせつけられる雪原がダブる。
雪のごとく真っ白な心でモノを見ている人物なのである。

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それはもう、コーエン兄弟の映画にしては拍子抜けなくらい、
まともに生活している人の姿でもある。

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切手のデザインに、自慢のマガモの絵を描いて募集する夫も
まとも過ぎて、凡庸そのものの人物である。

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しかし、
いくら田舎町とはいえ、女性の警察署長というところが、
しかも腹ボテというところが標準値では無いのだが、

ここで生み出された、おおよそ緊張感を失った女性のキャラクターは
意表を突いている。

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こんな人物だからこそ、彼女が口にする

「人生はもっと価値があるものよ」

という、今さらながらの正論が印象深く響いてくる。

そして彼女は付け加える。

「こんないい日なのに…」

どこまでも続く雪だらけの生活の中にも
いい日とわるい日があるようなのだ。

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時候の挨拶にも似た俗っぽさが、間が抜けて滑稽でもあるが、
のどかな生活感を思わせて、幸福な気分にすらさせてくれる。

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コーエン兄弟は、
生まれ故郷の冷たい雪原と白一色で塗り込められた無機空間には、
一滴の赤い血による危険な色合いもよく似合うが、

照れくさいくらいにまともに語られるハートウォーミングな色合いも
どれほど似合うものかを知っているのだろう。


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★★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。






















・「ブラッドシンプル」から始まる
コーエン兄弟のドラマトゥルギ―として垣間見られるのが
ラストで観客をやんわりと挑発すること。

良くも悪しくも
ウエルメイドなエンディングなど準備しない。

この場合、準備をしないだけであって、
「トゥルーグリット」を見る限り、
職人仕事も完璧にこなせる人たちでもある。


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そんな
型通りのエンディングを見事に逸らした
頂点みたいな作品が「ノーカントリー」。

但し、この原作に基づいた作品においては、
コーエン兄弟が、シナリオの比重を何処に置いたか?
という問題でもある。




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●No Country for Old Men(2007・アメリカ)
監督・脚本:ジョエル&イーサン・コーエン
原作:コーマック・マッカーシー「No Country for Old Men」




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・「ブラッドシンプル」の“情欲”を“金欲”に置き換えると
映画「ノーカントリー」のコーエン兄弟型の不気味な方程式も、
因数分解出来る。…と思う。


舞台は、コーエン兄弟が愛する無愛想な土地、テキサス。

更に国境を挟んで異郷メキシコまでを射程圏に入れた
殺伐とした風土が、この血ぬられた殺戮の叙事詩を盛り上げる。

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このバックグラウンドがすべてと言ってもいいくらい、
都市の喧騒を寄せ付けないコーエン兄弟テイストの
独特の異臭が漂う。

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そんな国境地帯で、

麻薬取引上のトラブルで惨死したらしき連中の金を、
思わず手に入れてしまった男を中心に、
組織の殺し屋や国境線にある田舎町の老保安官が
各々の思惑の中で交錯して行く話である。

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うっかり観る方も、盗んだ大金を持って逃避行する男と
冷気を放ちながら追跡してくる強烈な殺し屋の
ただならぬ緊迫感に満ちた追跡劇に目が行くわけだが、

この展開だけ拾えば、
実は、筋立ては単にデンジャラスなクライムストーリー。

しかし、これでは終わらないコーエン兄弟、一筋縄では行かない。

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何しろこんな気色悪い殺し屋にはお目にかかったことが無い。

コイツのキャラクターを嬉々として造形しながらほくそ笑む
コーエン兄弟の姿が見えるくらいインパクトは超特大級。

演じるハピエル・バルデムの表情を押し殺した“顔相”と、
気抜けなウエット感漂うヘアスタイルを、先ずは絶賛しておきたい。

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小説は読んだことはないが、
原作者のコーマック・マッカーシーは、
地球の滅亡感と、父と息子の冷え冷えとした旅路を描く
ヴィゴ・モーテンセン主演の秀作「ザ・ロード」の原作で、
ピュリッツアー賞を受賞した作家である。

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小説と映画の原題は同じく
「ノーカントリー・フォー・オールドメン」

心無い邦題は、スリラー部分だけを強調して売りたいがために
重要な“オールドメン”をカットした。
これが殊更日本では、ラストシークェンスの解釈で混乱を招いた。

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直訳すれば、老人たちの住める国なんか無い、という
あるいは、行き場なき老いさらばえた者たち、という
悲痛な叫びにも似たタイトルである。

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自分なりに意訳すれば、
老人の望むような平穏なんかこの国には無い、ということになろうか。

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少なくとも原作がウエイトを置く
ここにおける主役は、「オールドメン」なのだと思う。


現代の凶悪な犯罪を憎悪しながらも、
どうすることもできない現実と、
比例して老いをも感じ始めている田舎町の保安官。

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冒頭のナレーションで、
親子代々続いてきた
その保安官という職業への思い入れを語る。

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開拓時代の銃を携帯しなかった保安官の話まで持ち出し、
英雄たちの栄華を並べる…

一方で、かつて幼女殺人犯を逮捕して、
裁判で証言することで死刑台送りにした逸話を
躊躇するかのように口にする…。

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ただ、この保安官、キャリアからくる勘は鋭いし、
物事の是非は人一倍心得ているのだが、
実は、どこかで安泰の路を選択して生きている。


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凡庸な人生の中で、理想を高く掲げ、
保安官である自分を過去の英雄たちにダブらせてきたが、
実際は名を残すほどの栄誉など持ち合わせていない。

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銃を構えて乗り込む時も、助手を前に立たせて
その背に隠れて、恐る恐る後ろから進む。

いつしか老いぼれてきた自分の気概や威勢にも気付いている。

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かつて保安官だった年老いた叔父に会いに行くところは、
ここで言う“オールドメン”の姿を象徴的に語りかけてくる。

老人は、野良猫に囲まれてひっそり車椅子に坐り、
尋ねる者もなく、侘しく独りで生活している。

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心が折れたのか、引退を考える保安官は、

敬語を使わないようになって、世の中で凶悪な犯罪が増えたと嘆く。

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老人は保安官に向かって口にする。

失ったものを取り戻そうとすると、更に失う。
結局、出血を止めるしかないんだ…と。

つまり、胸のバッジに正義を託したところで、
目の前の出血を止めるまでが一保安官に出来るすべてだと諭す。

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先人者が拓いて明かりが灯された道を着いて行く…
それを繰り返し、
次の世代へとすべては受け継がれて行く。

終幕で描かれる夢の話は、老いさらばえた者は
せめて明かりを灯してやればそれで充分なんだと
伝えているのかもしれない。

あるいは、
それしか出来ないのが老いたる者の宿命ともとれる。

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原作者マッカーシーは、「ザ・ロード」のラストでも、
すっかり荒廃しきった地球で、
凍てつくほどの絶望の果てに途方に暮れた少年に対して、
かすかながら希望の明かりを灯して見せた。

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そして、コーエン兄弟がここで強調してみせたのは、
このシークェンスは何だ!?と、びっくりさせるような
殺し屋の終幕における驚愕の姿である。

この人物には保安官が嫌悪する“凶悪犯罪”の意がダブる。

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コーエン兄弟は、あえて、
何処までも根を絶つことなど出来ない
凶悪犯罪そのものの恐怖が連綿と続く姿を
ひとりの凶暴な殺し屋に投影して見せた。

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但し、原作のメッセージはどうであれ、
コーエン兄弟は、

オールドメンの存在に重きを置いたシナリオには
仕立ててはいない。

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ドラマに序破急のある金を持ち逃げする男の逸話を中軸に据えて、
得意のすべてを巻き込む濁流式の群像劇として描いている。



夕陽に馴染むセンチメンタリズムよりも
白昼でも血が流れるハードボイルド、

これがコーエン兄弟の選択である。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★






★★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。






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●BLOOD SIMPLE(1984・アメリカ)
監督:ジョエル・コーエン 脚本:イーサン・コーエン






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Frances McDormand

まだ色香尽きない人妻がいる…

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Dan Hedaya

細かい金銭勘定で自分を縛り上げた恐ろしく気の短い夫がいる…

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John Getz

誘惑に負けて人妻との情事に溺れゆく若い男がいる…

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M.Emmet Walsh

若妻の情事を嗅ぎまわる薄気味悪い私立探偵がいる…



テキサスの熱風に煽りたてられる裏寂れた片田舎、
乾いた土埃で薄化粧したネオンをちりばめた一軒の酒場。

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見た目はともかく、
やつれたドランカーたちの溜まり場であることは一目で知れる。

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何事にも無関心な寒々とした連中が、日々腹に安酒を流しこみ、
何かを軽蔑しながら、身の丈に応じて安っぽく時を過ごす。

酒は腹の中で汚水へと変わり、その濁りが愚痴としてこぼれ落ちる。

そんな、ヨダレよりひどい塵埃の玉など拾い上げる者などいない。

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コーエン兄弟のデビュー作は、
映像のどこを探しても、
美酒に酔いしれるような華美な香りなど微塵もない。

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こいつらの過去には何かあったんじゃないかと
思わず勘繰りたくなる程、
陰質なジメっとした血なまぐさい空気を好んで切り取り続ける。

おそらく
毒気まみれのフィルムそのものもジメっと湿っているに違いない。

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しかし、
テキサスというドライアップした風土を背景に、
4人の男女が他人の欲望にしがみつき、
新たな欲望を満たすべく、ねっとり絡み合う姿には、
そこはかとない乾きだけがつきまとう。

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これは、
果てぬ欲望から絞り出された道ならぬひとつの殺人を機に、
思わぬ動揺と焦燥から、
緩んで流れていた生温い血が冷血と化す様を見せる凄絶な一編。

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誰しも少なからず持ち合わせている飢餓と荒廃の絵姿は、
欲と欲の連鎖の結晶として、忌々しくも鈍い輝きを放つ。

コーエン兄弟はそれを見せたがる。

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自滅の痛みにもがき苦しみながら、
それでも救済の手を求める人間の救いなき有様を、

捕えた珍種の昆虫を生かさず殺さずもてあそぶ子供のように
4人の大人に託していたぶり倒す。

かつてないとんでもない奴らだ。

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されど、

巧みなセリフを配した裏切りの構図の中には、
ハードボイルドの、下品ながらも粋に突っ張った乾いた呼吸があり、

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堕ちゆく人間心理の末路を小刻みに爆発させ、
皮肉をこめて遊んで見せるクライマックスの演出力には、
コーエン兄弟の未知数の才能らしきものがギラギラ脈動している。

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取り分けラストカットの小気味イイ切り捨て方は、
映画ならではの腰が浮きそうな興奮と、
ニンマリせずにはおられない永遠の余韻を残す。

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作品のクオリティはインディーズらしさに包まれているが、

このラストは、どこから生まれ出た余裕なのか?
匠の技としか言いようのないきらめきで観る者を包み込む。

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コーエン兄弟が若き頃から老成していたことと、
その大器の片鱗をうかがわせる重要な作品である。

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…もうひとつ付け加えておきたいのが、コイツだ。

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何故か始終ハエにたかられている脂ぎった肥大漢、

下卑た高笑い、派手なド田舎ファッション、滴り落ちる玉汗、
小心者に見せて実は見たことも無い毛深い心臓に、タフな根性。

何拍子も揃った小悪党レッテルの集合体みたいなオッサンである。

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そのうえ、
いちいち軽薄さをまき散らさずにはおれない
口汚いチンピラヤンキー振りがイラッとさせる。
そもそも
全知能が悪知恵回線にしか繋がっていない。

こんなドギツイ私立探偵も見たことが無い。

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80年代を代表する名バイプレーヤー、
M・エメット・ウォルシュ扮する暑苦しさみなぎるこの探偵こそ、
コーエン兄弟が愛するハードボイルド世界の住人でもある。

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そして、
映画「ブラッドシンプル」のもうひとつの主役でもある。






★★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。





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・後年再公開された
「ブラッドシンプル・ザ・スリラー」は、
 タイトルこそ長くなったが、
 オリジナルを再編集した5分短縮バージョン。
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 尺を延ばしがちなディレクターズカット版ながら、
 本編に一片のフィルムも足さずに、
 何を思ったか5分も引いているところが、

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 コーエン兄弟のコーエン兄弟たる所以。ハロウィン






















ホラー洋画劇場Vol.22





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●MOTEL HELL
(1980・アメリカ)

監督:ケヴィン・コナー 
脚本:スティーヴン・チャールズ・ジャッフェ ロバート・ジャッフェ



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はい、みなさんまたお会いしましたね

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たまには、なんとも知れん妙なホラー映画も語りましょうね

その妙な映画は「地獄のモーテル」いいますな、

原題は「MOTEL HELL」、
そうですね、原題も地獄のモーテルいうんですね


はい、映画が始まりますと、

カリフォルニアの何処や知れん田舎の町、
周りは森に囲まれた丘の上、
人も寄って来んようなけったいな場所に
一軒だけ建物があるのね。

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真っ暗な夜の闇の中で、
真っ赤なネオンが、チカチカ、チカチカしてますね
よう見ますと「MOTEL HELLO」と
書いてあるのね

ところが、「HELLO」の文字の最後の「O」の文字が
電球が切れたんか知らん、パッカパッカ点滅しとりますね

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それが、「MOTELL HELL」に見えるのね
あらまあ、タイトルの「MOTEL HELL」いうのは
そういうことなのか、と笑ってしまいますな

何とも人を食った仕掛けですね

そんな真っ赤なネオンに包まれたモーテルのバルコニーで、
家主らしき、初老の帽子かぶったおやじが
パイプなんかふかしてるんですね

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このモーテル、空室のサインも出とる…、
どうも客も入っとらんようですな

そうしまして、このおやじ、部屋の中に戻って行きますと
空室のサインを満室に切り替えて、
いきなりライフルを持って、トラックに乗って出かけて行った

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道端にはおやじの似顔絵の入った大きな看板が見えますね
「農夫ビンセントの燻製肉」と書いてある…

ああ、この男は、モーテルを経営してるだけやなしに、
農家もやってる、ハムかベーコンか知らんけども肉も売ってる

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けれどもライフル持って夜中出かけるというのは、
なんか穏やかじゃないな、なんか胡散臭いな…

この映画はそんな始まり方しますね

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このおやじには、妹がおりまして一緒に住んでいるんですね

妙に肥えた女ですな、いつもニヤニヤしとる
なんかけしからん、ふてぶてしいこの妹と一緒に
いぶした肉を売って
農家をやっとるんですね。

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ところが、これがただの農家じゃないんですね

この兄妹、いったい何をやっているか…?

えらいことやっとる、とんでもないことやっとる、
それがどんどんどんどんわかってまいります。

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はい、そんなわけでこの妙な映画
「地獄のモーテル」、
今のホラーをたくさんご覧になってるみなさんが観ましたら、
おもしろいことに気づかれる思います。

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そうね、70年代、80年代の、
当時、大量に作られておりましたアメリカのホラー映画、
自主製作、マイナーなプロダクションで撮ったような
血がぎょうさん出るスプラッターいうのが人気でしたけれども、

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これ、ご覧になりましたら、
あんまり残酷なこと出来ない、血もだらだら流せない、
当時のメジャー会社が撮ったホラーが、
どんなもんやったかいうのが
よ~くおわかりになると思います。

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はい、監督はケヴィン・コナー、
なんでこんなけったいなホラーを撮ったか
わかりませんけれども、

「恐竜の島」ありましたな。
「アトランティス/7つの海底都市」ありましたな。
ちょっとしたSFが上手い監督ですね。


主演は、

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これまた古い西部劇スターのロリー・カルホーン、
こんなとんでもない役は、やったことない俳優ですが、
モーテルを持った農夫のおやじを
おもしろがって演じておりますね

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ハムとベーコンばっかり食べてまん丸に肥えたその妹が、
「ポーキーズ」のナンシー・パーソンズ、

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若い保安官が出てまいりますけれども、
主人公の弟の役で、TVのコメディアンのポール・リンク、

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怪我してこのモーテルに居ついてしまう娘さんに
「コブラ」の二ナ・アクセルロッド、


それから

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当時、アメリカ中で人気のあった
DJのウルフマン・ジャックが、ちょっとだけ顔を出します

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はい、これはいっせんきゅうひゃく80年度の
アメリカ製のちょっと妙な、クセのあるホラー映画です

どうかじっくり…、そうだな、
じっくりやなしに、ゆったりとのんきにご覧くださいね

最後のおやじのセリフだけは、見逃さないでくださいね

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

それではあとで、またお会いいたしましょ




$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★




この主人公の男は、
モーテルも経営しとりますが、

豚も養っておりますな、

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それを加工して、
燻製の肉やら売って、
味がいいのでこっそり評判になっとる。

あっちこっちから客がわざわざ買いに来るくらい
美味しい燻製肉を作ってるんですね

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

お客も
いやいや、あんたんとこのハム食べたら
他のとこのは食えませんなぁ、言うんですね

そうしましたら、おやじが、

うちの燻製はですな、化学薬品なんか一切使うておりません
有機栽培やからこんないい味が出せるんですよ、あっはっは
なんて、お客に講釈を垂れるんですね

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

おみやげ用のベーコンスティックも
2ドルなんぼかの安い値段で売ってますな
客が喜ぶような、
安くておいしい燻製ばっかり売ってるんですね

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けれども、
そんな商売だけやないんですね、

何かやっとるな、このおやじ、
妹とふたりで、妙なもんを
こっそり作ってるんですね

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

草木で囲い込んだ、隠れ家みたいな裏の畑で
こっそり何か作ってますな、

耕して、植えて、土かけて埋める、
野菜みたいなもんをこっそり作っている

なんでこっそり作らなあかんのか?

妙ですね、妙ですね、

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

けれども、ちょっとずつ何をやっとるかわかってくる

畑で何か動いとるな、
何やろう?何やろう?

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

栽培しとるものは、全部どれもこれも
ムシロみたいなもんが被せてある…

何やろう?何やろう?

そして、
おやじの様子を不審に思って、
こっそり忍び込んだ食肉の検査員の男が
この畑を発見しまして、

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

動いとるムシロの方へ、おっかなびっくりで
近づいて行くんですね

恐る恐る、震える手で
何やこれは?!と、
思わずムシロを剥ぎ取った!

ぎゃあ!言うて声上げてひっくり返った、
えらいことになっとった!

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

さあ、ここから兄妹のもうひとつの仕事、
考えられないような仕事が
明らかになって、えらいことになって行きますね









$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

はい、いかがでしたか?

おやじが言いますな

「ここいらはなぁ、昔っから
冷蔵庫いうもんがなかったんや、
だから俺のおふくろは、
何でもかんでも燻製にして保存してましたんや」

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

そうですね、これはそんなアメリカの
ずう~っとず~っと端っこの
うらさびしい田舎の話なんですね

冷蔵庫が無いから燻製にする、
そうやって食べ物を蓄えてきた。
人の知恵ですね。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

それから
この兄妹は敬虔なキリスト教の信者で、
何かにつけて神様の話をしますな。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

そうしまして、例の気味悪い畑で
おかしなもんの栽培に精を出しながら
驚いたことに
世界の食料問題について語るんですね

「兄さん、あたしも遊びだったらこんなことはしない」

言いますね

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

そして

「誰かがこの地球を守らないといけない」

言うんですね

とんでもないことやっとる。
頭がおかしい連中にしか出来ないことをやっとる。
けれども
的外れもいいとこですが、
そこに、ちゃんと意味があると思うてますな。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

こんな、まともそうなこと言うもんだから
観ている方は、ますます怖くなってくるんですね

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

はい、こんな風に、皮肉な笑いがポロポロこぼれ出る
けったいなおもしろい映画でしたね。

お遊びだから、こんな映画が作れるんですね。

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はい、もう時間きました。

それでは次の作品、ご紹介いたしましょ


次回は、これまた80年代の
めずらしい列車のホラー、カナダ映画「テラートレイン」



どうぞ、たのしみにお待ち下さいね



それでは
次回もこの時間、お会いいたしましょう


$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★


それでは、
サイナラ、サイナラ、サイナラ







★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。























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・未公開映画の中には、時折こんな傑作が
さして話題にもならず転がっていたりしますネ。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

レンタルDVD探索をやめられないのは
このあたりが理由ですが、
広報力の手薄なレーベルからリリースされたものだと
直感を頼りに、
もう手当たり次第に手を出すしかないのです。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

まあ、80%が空振り三振なのは、
今も昔も変わらないんですけどネ。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

ただ、「11:14」、
これは発見したらぜひご覧ください。
掛け値なしに、出来のいい秀編です。

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あ、似たようなタイトルの
何の関係も無いホラーもありますのでご注意ください。




$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★


●11:14(2003・アメリカ)
監督・脚本:グレッグ・マルクス



・まず
出演者やスタッフの名前を車に見立てて
路上を縦横に走らせるという、

60年代の映画でよく見かけたような
アニメーション仕立てのタイトルデザインが、
シンプルでオシャレですネ。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

これは、
夜の国道を走る1台の車が、
11時14分に遭遇した事故に始まる
その僅か20分前後に起こるアクシデントのドラマです。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

ここに登場する車を絡ませたいくつかのアクシデントは、
すべて、
ちょっとした動揺と絶体絶命の焦りからくる
登場人物たちの軽挙妄動から生まれるんですネ。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

ウッカリ、チャッカリ、ポッコリって感じです。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

思えば、素人判断から転がり出るトラブルが
こんな風に、ある意味“お間抜け”に見えてしまう姿を
サスペンスタッチで描いた作品は無かった気もします。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

そこから生まれる不遇、不運、衝撃をブラックな笑いの中で
時制をずらしながら見せるトリッキーな展開です。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

86分という短尺ながらも、
よくもまあこんな人生模様を一気に詰め込んだもんだと
シナリオの手際の良さに唸らされますネ。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★



キャストも、やや懐メロ系を織り交ぜながら割と豪華です。

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

冒頭に出てくる夜間ドライブ中の男を
懐かしや「E.T.」のヘンリー・トーマス、
まだ俳優やってたんですネ=

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

近所に住むオバチャンを
「エンティティー/霊体」のバーバラ・ハーシー
この人、他にもイイ作品はいっぱいありますが、
どうしても「エンティティー」を冠号にしちゃいますネ。ハロウィン

その旦那を
「アウトサイダー」「ゴースト/ニューヨークの幻」の
パトリック・スウェイジ、

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

色事に迷走中の娘が
一時ティーンのアイドルだったセクシー姉ちゃん
レーチェル・リー・クック

そして、


$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

歯を矯正中のスーパーの店員が
「ミリオンダラー・ベイビー」の
ヒラリー・スワンク

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

いきり立ったスーパーの店員仲間が
TV出演の多い個性派
ショーン・ハトシー

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

ボックスカーのチョチョ切れ3人組
左からベン・フォスター、コリン・ハンクス、スターク・サンズ

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

保安官が
「アイアンマン」シリーズ、「マイティ・ソー」等に
レギュラーで出てくる捜査官フィル・コールソン役の
クラーク・グレッグ。


…と、まあ、こんな方々が
11時前後の20分間の中で織りなすスピーディな群像劇です。


何がどうしてどうなるか?いったい何が起こるのか?は、
どーぞ、ストーリーの予備知識なんかゼロで
ご自身の目で、このアクシデントをお確かめください=叫び

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★


「パルプフィクション」や
「トリック・オア・トリート」といった
時系列解体&自在構成された作品は、

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

複数の登場人物の行動と交錯をコラージュしながら、
時制をパズリングした伏線の巧妙さで見せるわけですが、

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

この作品の構成力とシナリオの巧さは飛び抜けていますネ。



なんせ、チョッとしたイライラ、ジリジリ、ピリピリが
観ているこっちにも伝わってくるあたりの演出は上手い!

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★

グレッグ・マルクスという若い監督ですが、
これがインディーズムービーながらデビュー作、
シナリオも書けるところが大いに注目ですネ。

ご覧になっていない方には
チョッとオススメの思いがけない逸品です=カチンコ

$パイルD-3の『時速8キロの映画感』=★





★★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。