
・スウェーデン生まれの伝説の大女優グレタ・ガルボの本名は、
グレタ・ロヴィッサ・グスタフソン。

天然の冷凍庫みたいなミネソタ州の町ワバシャを舞台にした
凍結氷上の仮設ミニハウスで釣りに興じるいじわるじいさんたちの
殺し合い(?)を描く傑作コメディ「ラブリー・オールドメン」で、
ジャック・レモン演じるじいさんの役名はジョン・グスタフソンだった。

このグスタフソンという特異に思える名前が、
カナダの国境でもある
ミネソタ州ミネアポリス出身のコーエン兄弟が、
地元ミネソタとお隣のノースダコタ州を舞台に描く
「ファーゴ」にも登場する。

資産家老人役のハ―ヴ・プレスネルの役名が、ウェイド・グスタフソン。
グスタフソンは、実は北欧スウェーデン人のポピュラーな名前なのだ。
…というわけで、
映画「ファーゴ」は、真っ先に
その昔、寒さに強い北欧移民が永住の地を求め、
流れ流れて住みついたことが納得できるほど、
ミネソタが極寒の地であることを見せてくれる。

実際に6月、7月のサマーシーズン以外すべて季節は冬だという。
ここに登場する果てしなき雪原は、とても美しく
同時に寂しさに包まれて寒々しく広がる…。

●FARGO(1996・アメリカ)
監督:ジョエル・コーエン
脚本:ジョエル&イーサン・コーエン
・鬱蒼とした森林、起伏の多い野山、広大な平原、田園地帯…
都市から遠く離れて、自然の占有率が高い場所というのは、
それだけで映像に深みを持たせるものだ。

これは、
自然の摂理が生みだす“雪”の異常な量感を利用して、
コーエン兄弟がいみじくも美しく撮りあげて見せた、
ファーゴという名の小都市で起こる
偽装誘拐事件に絡む人々の醜い争いのドラマである。

奇異な人物を作り出すことにかけては
天下一品の技量を持つコーエン兄弟だが、
今回は、実は人の色合いが少し違う。

コーエン作品にしては、ノーマルな人々が、
小さな手違いから、一転のっぴきならない事態に巻き込まれ、
みるみる変貌していくプロセスを追う。
しかしながら、いつもより少々ノーマルだからと言って、
あっさり手抜きなどするわけがない。
偽装誘拐を画策する自動車セールスマン(ウィリアム・H・メイシー)は、
いかにも姑息そうな落ち着きのない安手の男である。

この男、本人としては金持ちの義父(ハ―ヴ・プレスネル)から、
大金をせしめるという大それた犯罪を思いついたつもりだろうが、
実は人様には何の影響も無いファミリー・チート(家庭内詐欺)の
レベル。

…ただ、どこから見つけ出して来たのか頼んだ相手が悪かった。
雇われた誘拐請負人の二人組
(ピーター・ストーメア、スティーヴ・ブシェーミ)は、
あまりにもヤバ過ぎた。
もう少しまともな仕事人なら、事は思い通りに進んだはずである。

この連中の思いも寄らぬ人格の誤作動から、
小さな詐欺事件は、しっかり人様に影響を与えながら膨張していく…。

コーエン兄弟は、やはりここでもあっさり標準値を超えてみせる。
毎度のことながら、
おもしろがっている部分が、うれしいくらい尋常な感覚では無いのだ。

人間に対する視点が疑念に満ちており、嘘や曖昧さをおもしろがる。
危険な空気を好み、不安な状況を溺愛する。

公明正大な平均化されたものを見せて、
万人に受け入れてもらおうなんて一切思っていない。
そこから生まれ出た異端とも言える偏執振りが、強烈な感触をもたらす。

だからこそ、
とりわけこの映画で記憶に残る人物は、誘拐事件の捜査にあたる
妊娠中の警察署長(フランセス・マクドーマンド)。
警察官としてごく普通に古臭い正義を信じていて、
女性として生まれ来るベビーの将来を夢見ている
“まとも”な人物である。

突然現れる妙な旧友に口説かれても、
まともなだけに当然相手にしない。
そんな事態を理解しようともしない。
鈍感なのではない、ごくまともなのだ。

ここに、背景として散々みせつけられる雪原がダブる。
雪のごとく真っ白な心でモノを見ている人物なのである。

それはもう、コーエン兄弟の映画にしては拍子抜けなくらい、
まともに生活している人の姿でもある。

切手のデザインに、自慢のマガモの絵を描いて募集する夫も
まとも過ぎて、凡庸そのものの人物である。

しかし、
いくら田舎町とはいえ、女性の警察署長というところが、
しかも腹ボテというところが標準値では無いのだが、
ここで生み出された、おおよそ緊張感を失った女性のキャラクターは
意表を突いている。

こんな人物だからこそ、彼女が口にする
「人生はもっと価値があるものよ」
という、今さらながらの正論が印象深く響いてくる。
そして彼女は付け加える。
「こんないい日なのに…」
どこまでも続く雪だらけの生活の中にも
いい日とわるい日があるようなのだ。

時候の挨拶にも似た俗っぽさが、間が抜けて滑稽でもあるが、
のどかな生活感を思わせて、幸福な気分にすらさせてくれる。

コーエン兄弟は、
生まれ故郷の冷たい雪原と白一色で塗り込められた無機空間には、
一滴の赤い血による危険な色合いもよく似合うが、
照れくさいくらいにまともに語られるハートウォーミングな色合いも
どれほど似合うものかを知っているのだろう。

★★★★
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