・雪原を疾走する列車と言えば、
猛吹雪の中を轟々と機関車が突き抜ける
「暴走機関車」を思い出す。

黒澤明監督が、
巨費を投じ過ぎるという理由で東宝を解雇されて、
いよいよ海外進出に活路を求めた監督自身、
ハリウッド進出の足掛かりとなるはずだった
いわくつきの作品。

1985年に作られた
アンドレイ・コンチャロフスキー監督版は、
黒澤版との狙いが大きくかけ離れていることに対し、
日本ではその作風に対して批難も多かったようだ。

■黒澤 明
僕は、黒澤版がシナリオとしてしか存在しないため
比較のしようもないと思うが、
脱獄囚役にヘンリー・フォンダとピーター・フォークが
キャスティングされていた黒澤版も観てみたかった。

■HENRY FONDA

■PETER FALK
更に、人間ドラマよりも
生きているかのような機関車そのものの狂った暴走と
それを停めることに必死になる人間たちの姿を、
シンプルに描出しようとした黒澤版は、
明らかにパニック映画の先駆けになったかも知れず、
口惜しい思いが募ってしまう。

かくして、
原型から様変わりしたハリウッド版「暴走機関車」は、
異様な人間ドラマとして制作された。

●Runaway Train(1985・アメリカ)
監督:アンドレイ・コンチャロフスキー
原案:黒澤 明 菊島隆三 小国英雄
脚本:ドルジェ・ミリセヴィック ポール・ジンデル
エドワード・バンカー

・殺気だった激しいドラマである。

極寒のアラスカ、重犯罪者を収容する錆びれた刑務所。
ここから脱走を試みる
野獣のような凶悪犯の男(ジョン・ボイト)と、
彼を慕う若僧(エリック・ロバーツ)が、
零下30度の雪原を逃亡し、

いよいよ飛び乗った貨物用ディーゼル機関車が
運転士の心臓発作というアクシデントから
突如暴走し始めるという話。

20数年もここに勤務する所長(ジョン・P・ライアン)と
悪魔的な凶悪犯との確執、

唯一搭乗していた女性の乗務員(レベッカ・デモーネイ)が
絡んできて、極限の暴走パニックと追跡戦が併行展開する。

所長がヘリで執念深く追跡してくるという
じっとりネチネチしたアクションドラマの設定は、
実はストーリーをまわりくどくしていて、
主体となる暴走機関車の暴走劇がボヤけるのだが、

なんせ、主人公の野獣男が肩入れ出来ない人物像のため
この図太いバトルにウエイトを置くのはむしろ正解だった。

序盤の刑務所からの脱走劇も、鉄道の管制本部が制御しきれず
すったもんだする図式も、アメリカ映画ではよく見るパターンで、
特筆すべきところはないのだが、

やはり、呼びものである機関車の暴走が始まってからは、
見どころ充分。
雪原地帯を舞台にした寒々しい効果と、
走る密室型映画の息詰まる感触を存分に見せる。

監督のコンチャロフスキーは、主演のジョン・ボイトの進めで
渡米した監督で、ロシアの名匠二キータ・ミハルコフの兄である。

ロシア時代の繊細なタッチからうって変って、
本作で見せた粘り強い演出は、何とも今作限りで、
以降の作品は軒並み平凡という一発屋でもある。

ジョン・ボイトは、この作品に並々ならぬ情熱を見せ、
別人のごとき、かなり強烈なメイクで、
元々の素朴な田舎の坊ちゃん顔を変形させた。

ここから個性派への脱皮を図り始めて、
俳優としての生命線を延ばすことに成功した。

目立ち過ぎるくらい目立ったのが
殺し屋まがいの刑務所長のジョン・P・ライアン

そして、

鉄道の管制局長をリアリティたっぷりに演じる
肥大漢ケネス・マクミラン
このふたりの強烈なバイプレイヤーの存在感は、
作品の迫真力を大いに盛り上げている。

ただ…
ラストの画ヅラは何ともスタイリッシュに走り過ぎて、
シェイクスピアの「リチャード3世」から引用した言葉も含めて、
何かを超越して見せたつもりかもしれないが、

ここで野獣をレジェンド化してみせる空気感は不要で、
フォーカスするポイントがズレたとしか思えない。

黒澤明監督が目指した、
鉄の塊である機関車の暴走と人間の無力感を対峙させる
直情型の骨太いドラマからは乖離してしまっているようだが、
ひとつの別モノ作品として見れば、見応えはある。
★★★★
採点基準:★…5個が最高位でマーキングしています。★…は★の1/2です。



























































































































