あの子の隣 第九回
今日、いよいよあの子が帰ってくる。
1年前、留学をしてしまったあの子。
あの子が留学する前に気持ちをはっきりさせるぞ。
そう思って、一目ぼれしたあの子に告白した。
結果は、なぜかオッケー。
こんな地味なぼくに、こんな可愛い彼女ができるなんて…!
嬉しすぎて小躍りしそうだった。
付き合うことになってすぐに彼女は海外へ。
あの子が留学している間は、会うことはなかった。
しかし、月に一度、手紙でやり取りをしていた。あの子の手紙から伝わるやさしさを感じられるのが嬉しかった。
これからは、会いたいときに簡単に会うことができるのか…。
幸せすぎてしょうがない。
ニヤニヤしながら、待ち合わせ場所にいくと、あの子が待っていた。
「あ!ひさしぶり!」
え…。前よりきれいになってる…。
やばい、血圧あがる…!
「ひ、ひさしぶり…!」
「やっぱりここからの景色はきれいだね~。あ、あそこ私の家!」
あの子は楽しそうに話している。
些細なことでも、楽しさを見つけられるところが好きだ。
少しの間、景色を眺めた後、ベンチに座って、いろんなことを話した。
留学先での出会いや、楽しかったこと。
日本に戻って感じたこと。
これからの学校生活のこと。
あの子の声はすごく落ち着く。
久しぶりに聞けたから、ものすごくうれしい。すると突然、あの子が言った。
「そういえばさ、肉まんと芋まん買ってきたんだよね。どっち食べたい?」
「え?!どっちもおいしそうだな…」
「お、奇遇だね~。私もどっちもおいしそうって思ってたから半分こしよっか!」
「うん。そうしよっか」
なんか。恋人っぽい。
肉まん半分こするだけなのにドキドキする。
「肉まんを半分ことか、恋人っぽいよね。やってみたかったんだ~!」
照れながら言うあの子もかわいい。本当にかわいい。なんなんだ。
それと同時に、こんなことも思った。
『僕と会えなかったことは、寂しくなかったのかな…』
もちろん僕は、ものすごく寂しかったけど。
すごく気になる…。
聞いたら、重い男だと思われるんじゃないか…。いや、ちゃんと言わなきゃだめだ。
ちょっと切り出してみる。
「そういえばさ、留学中は寂しくならなかったの?」
あの子は不思議そうに言った。
「え、全然寂しくはなかったよ」
「そうなんだ…」
それはそれでなんか寂しいなぁ。自分だけこんなに好きなのか。
少し落ち込んだ顔をしていると、あの子は笑った。
ぼくは本気で寂しいと感じているのに!ちょっと怒りそうになった。
すると、笑いながらあの子は話した。
「ふふふ。実はね…。君の首らへんがね、パンのにおいがするの。」
「へ!?パ、パン?」
知らなかった…。自分のにおいなんて全然気にしたこともない…。
「そう、パンのにおいがするの。街を歩いているとパンのにおいがよくしててね。君をいつも近くに感じられてたんだ。だから、寂しくなかったの」
「そっか」
そういわれるとなんだかうれしい。「パンのにおい」っていうのは気になるけど。
これからは前よりも会えるようになるけど、今までみたいにちゃんと言葉にして伝えていこう、そう思った。
あの子と話していると、いつも明るくなれる。
今もこうやって、二人で笑っていられる。
これからも大事にしていきたい。
隣のあの子
堀籠莉奈さん
Write・Photo たかみー