〜 恋のはじまりは「情報収集」から 〜
源氏物語に描かれているのは平安時代の貴族たちの姿。
ご存知の方も多いと思いますが、この時代の結婚は「一夫多妻制」。
「正室」と「側室」がいることは当たり前の世の中でした。
とはいえ「手当たり次第」というわけにもいかず、
そうなると「少しでも条件のよい姫を…」と考えるのは自然の流れともいえます。
俗にいう『ターゲットを絞る』というヤツですね。
ですが、これがなかなか難しい。
というのも、この時代、
身分の高い女性が、街中をブラブラ歩いているなんてことは皆無で、
高貴な姫ほど「引きこもり状態」。
お屋敷の奥でじっとしているのが当たり前でした。
(これが「奥様」の由来ともいわれています)
しかも、家族以外の男性と顔を合わせることは「はしたない」とされ、
人前では扇や御簾で顔を隠している始末。
出会うことさえ大変な状態なのに、
一体どうやって相手を見つけていたのか?
実は平安時代の恋愛は、まずは「情報収集」からスタートしていました。
「美人なのか?」「教養はあるのか?」「気立てはどうか?」
「家柄は?」「財産は?」など、
噂を聞き歩いたり、姫君の侍女のコネクションを駆使して、情報を収集。
いわゆる「マーケットリサーチ」ですね。
そうして集めた情報をもとに、ターゲットを絞ったら、意中の姫にアタック開始!
つまり「和歌」を送るのです。
一方、姫君側もただ黙って和歌が送られてくるのを待っていたわけではありません。
時には自分に都合のよい噂を流すこともありました。
要するに「情報操作」です。(怖っ!)
平安の世はまさに「情報を制する者が、恋を制する」だったのですが、
希代のモテ男・光源氏でさえも、情報収集に失敗することもありました。
それが「末摘花」という姫とのエピソード。
光源氏が18歳の頃のお話。
『古風な教育を受けた深窓の令嬢』『没落貴族の悲劇のヒロイン』
そんな噂を鵜呑みにし、勝手に幻想を抱いて必死にアタックする光源氏。
突然やってきたモテ期に「何かの間違いでは?」と戸惑う姫。
間違いでもなんでもいいから、とりあえず目の前のビッグウェーブに乗ってしまえ!
と背中を押す侍女たち。
三者三様の思惑のもと、なんやかんやありまして、
ようやく手に入れた姫君は、美男美女揃いの源氏物語の中でも、異色の不美人!!!
なにしろこの姫君の描写がすごいんです。
『ガリガリの痩せっぽちで、顔色も悪く、
鼻がゾウのように長く、しかもどういうわけだか鼻の先が赤い。
ファッションセンスも最悪で、性格も昔気質で気が利かない』
とまあ、作者の紫式部、よっぽど機嫌が悪かったんじゃないかと思うくらい、
散々な言われよう。
一方、恋愛マスターを気取って、脳内お花畑でウキウキしていた光くんは、
いきなりカウンターパンチをくらい、力石並みに真っ白な灰です。
広く情報を集めることも大切ですが、
「集めた情報を確かめる」「吟味する」ことも同じくらい大切だと、
光源氏は申しております。
コラボレ 太陽