お姉さん店で

ある本指をNGにした


辛さが薄れてからでないと書けなかった

だからもう数ヶ月前の事



半年ほど月1や2くらいで

定期的に会いに来てくれていた


あまり饒舌には話さない、見た目は

強面な感じの人

でも私が年上だからか

いつも敬語で話してくれて

ぶっきらぼうに見えるけど言動は

優しかった(ように見えた)


少しずつ自分の事を話してくれて

何度も来てくれていても

お触りやこちらの嫌な事はせず

私も予約をもらうと嬉しく思うように

なっていった


私は毎回嬉しさに満ちた笑顔をして

彼が怪我をして来た時は心配して

それは本心からだった


決して店外に誘ってきたり

プライベートの連絡先を聞いてきたり

なんて無かったけれど

もしかしたら彼の中ではだんだんと

セラピストとお客さん、という境界線が

少しずつ少しずつ

曖昧になっていったのかもしれない



施術終わりに並んで横になっていて

私は微笑みながら彼の肩や腕を

優しく撫でていた


その時彼がゆっくりと身体を起こし

斜め上から私を見下ろす形になり

フッと両手で私の首を包んだ


え?


すぐ両手に力が入っていった


え??


あまりの事に頭が付いて行けなかった


「苦しい…!」

と声を絞り出すと

彼は私の首から手を離した


ぼやけた視界で荒い呼吸を整えながら

「どうして?」

と訊いた

とても小さい声だったかもしれない


彼は答えなかった



その後は時間も押していたので

手早くシャワーを浴びてもらって

玄関でお別れした

モヤモヤしたものが心に広がった


私の悪い特性で

あまりに衝撃的な事が起こると

混乱してその時はただただパニックで

後に思い返してやっと“傷付いたな”と

自分の気持ちに気が付く

いつもいつもそう


ああ、まただ



なんで?

何故あんな行動に出たの??


モヤモヤとした気持ちは

水に墨汁を垂らしたみたいに広がり

日が経つにつれて上から更に

黒いものがポタポタと落ちて来て

もっと濃くもっと淀みを増していった



なんで??


今までの平和な時間は何だったの?

あの穏やかな会話や空気は嘘だった?



ちょっとふざけただけ?

(でもどんな人でも決して首を絞めていい

相手なんていない)

…そういう性癖があるの?

(心の奥底でやってみたいという願望が

あったのかもしれない)


そして

いくら考えても答えは解らない



大切な事は


私がまた笑顔で彼と会えるか



答えは

No



気が付くと私はお店にメッセージを

送っていた

“◯◯様は今後NGでお願いします”


お店からNG了解と怖い思いを

させてしまって申し訳ありません、と

返信が来て私の黒く淀んだ心に安堵が

広がるのが分かった



『怖い思い』

そう

私は大きな恐怖を感じた


お店にNGを伝えたのは

あと少ししたら

また予約をして来そうな時期だった


もう本指でも客でもない

彼は私に二度と会えない


それが彼の私にした事の代償