超短編! -9ページ目

超短編!

短編小説、中編小説、映画の紹介記事とかを思うままに書きなぐってます

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〈6から続く〉

 教官室には、僕やサカガミを含めた管理業務のメンバーと、艦長を含めた数人の教官たちが既に集まっていた。
 僕が艦長に促されて席に着くと、間を置かずに艦長が話しだした。
「呼び出したのは他でも無い、ある重要な情報を伝える為だ。これまで内密に進めてきたある計画があり、近々それを実行する目処がついた。君たちの中には大方の察しがついてる者も居るかもしれないが、今から一ヶ月後に、国際連合議会の決定を待たずに、地球降下作戦を強行する」
 ささやかなざわめきが起こる。
 艦長は話を続けた。
「色々と聞きたい事はあるだろうが、前もって言っておくと、計画に好意的な国の首脳クラス、国際報道機関、或いは世界各国の人権団体等に助力を願い、実行への現実的な手続き、根回し等は十分に進んでいる。その辺は心配しないでもらいたい。ただし、以前から受け入れの拒否を示唆している国もあり、地上帰還船が安全飛行空域に達する前に領空圏侵犯等を理由にして撃墜される可能性も無い訳では無い。そう言った前提を踏まえた上で、君らに問いたい」
 艦長はそこで間を取った。
 隣のサカガミがゴクリと唾を飲みこんだ。
「地球に降りる意志はあるか?」
 艦長は僕らひとりひとりの顔を見渡しながら言った。
「可能なんですか?」
 サカガミが聞いた。
「一週間後、メディアにへのリークと同時に地上降下作戦強行を議会に通達する。おそらく地上は混乱するだろう。残念ながら故郷に降ろしてやる事までは出来ないが、この機に乗じてどこかの国の名簿に潜り込ませる。その際は可能な限り、行き先についての希望を叶えよう。他に質問は?」
「何故、強行なんですか? 議会の決定を待つ事は、もう出来ないんですか」
「管理業務に就いて見て分かったと思うが、このステーションは既に規定の人員を超過している。このまま行けば半年と待たずに食料が尽きる」
「食糧の自給が間に合わなければ、地上から送ってもらえばいいのでは?」
「その申請はすでに一年前から続けていたが、今から二ヶ月前、正式に却下された。自分たちでどうにかしろと言う訳だが、無理な話だというのはもう分かるだろう? 我々に選択肢は無いんだ」
 食べるものが無くなる。
 その現実に誰もが口をつぐんだ。
 なるほど、と僕は思った。
 それなら艦長が急ぐ理由も解る。
 教官たちが秘密裏に動いていた理由も。
 食料がなくなると言う情報が流れれば、それだけでステーションの中は混乱に陥るだろう。
 事実を告げ、なおかつ混乱を避けるには、希望を持てる解決策が必要だ。
 危機的状況に追いつめられて、艦長も意を決したのだろう。
「こういう状況だから、今回、地球に降りる意志のある候補生は可能な限り全員降ろす。忙しくなる。後から言おうと思っていたが、降りようが降りまいが、君達には作戦の決行まで準備を手伝ってもらいたい」
 エリザの顔が頭に浮かんだ。「地球になんか、降りないよ」と言っていた時の彼女と、子供のように「帰りたい」と泣いた時の様子が交互に浮かんだ。
「俺、降ります」
 サカガミが最初に手を上げた。
「手伝いますよ。何でもやる。だから、地球に降ろして下さい」
「俺も」
「私も」
 釣られるように、他のみんなも言い出した。
 沸き立つ一同を、一歩引いた所で見渡しながら、どうしてそう無邪気に希望を持てるのだ、と、僕は不思議でならなかった。
 結局、僕以外の全員が地上への帰還をその場で希望した。

 他のメンバーが降って沸いた新展開に歓喜の熱を上げているのを尻目に、僕は教官室を離れて通路を流れていった。
 そこへ艦長が僕を追いかけてきた。
 並走するように空中を流れてくる。
「君は降りないのか?」
「行っても、僕の居場所はありませんからね。サカガミのように楽観的にはなれない。もし、ここに居られたら邪魔だと言う事なら、そうしますけど」
「そんなことは無い。居てくれれば、それは助かるさ。君は有能だからな」
「なら、問題はありません。ここに居させて下さい」
 僕がそう言うと、艦長は短く唸り、顔をしかめて胸の前で腕を組んだ。
 かと思うと、僕の肩を掴んで、その場で静止させた。
「本当にそれでいいのか?」
「僕は構いません。ただ、疑問はあります」
「何だ? 言ってみろ」
「どうして本当の事を言わないんですか?」
「本当の事?」
「僕らは捨てられたんだ。百年前、地球は深刻な食糧危機に直面していた。僕らは、口減らしとコールドスリープの実験用モルモットを兼ねた都合のいい存在として、金と引き換えに」
「なぜそう考える?」
「両親が話していたのを聞いたんです。残念ながら、内容は全て理解出来たし、今でもはっきりと覚えています」
「確かに、あの計画にはそういう一面があったと言う話だが、それは」
「分かってます。昔の事だし、計画に艦長が関わっていた訳じゃないし、こんなこと言っても仕方ないって事は。でも、あんまり皆に地球に対して期待を持たせるのも、気の毒と言うか」
「どういうことだ?」
「僕らはしょせん捨てられた子供じゃないですか。みんな、その事を知らないみたいだけど、地球に降りれば事情に通じている人達にも会うでしょう。しかも地球降下作戦を強行する。地球に降りた後で事実を知って落胆、失望する奴も多く出てくるだろうし、なにより、面倒事を抱えた孤児を手放しで迎え入れる社会なんて、ありませんよ」
 肩にかけられた艦長の手から強い握力を感じた。
 その時の艦長の目は、今まで見たどんな人間の表情にも当てはまらない何かを語っていた。
 余計な事を言ってしまったかな、と少し後悔する。
 ふっ、と艦長の手が緩んだ。
「作戦までまだ時間はある。考えが変わったら、いつでも言ってくれ」
 ここは、礼を言うべき場面だろうかと考えたけど、答えの出ない内に艦長は元来た通路を戻って教官室の方に飛んでいってしまった。

 強行作戦のステーション全体への通達は、翌日行われた。
 降下作戦自体がかなり賭けの要素を含んでいる事については、さすがに不安の声が聞こえたが、艦長の話が食糧問題に及ぶと、誰もが自分たちの置かれた状況を理解し、言葉を失った。
「しかし、こう考えて欲しい。これは地球へ降りるまたとないチャンスだ。膠着した状況を打破する絶好の機会だと。諸君らの積極的な協力を請う」
 艦長はそのように語って作戦の肯定的な側面を強調し、それを契機に、候補生の間に流れかけた否定的な空気は希薄なものになっていった。
 降下作戦の準備に当たって僕に与えられた仕事は、地球降下希望者の名簿の作成だった。名簿作成と言っても、全員の詳細なパーソナルデータはデータベースに登録されているので、僕が実際に行うのは、一人一人の意志の確認になる。
 クラス毎に集まってもらってまとめて聞くのが一番手っ取り早く仕事を終わらせられるのだが、何よりも先に確認しておきたい事があった。



〈8へ続く〉

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〈5から続く〉

 独りで暇を持て余す時間ができてくるようになって、ふらりとサーキットに足を運ぶ事が増えた。
 回転するリングの内壁を地面にして、とにかく走って汗を流す。
 足を前に進め、腕を振る事に意識を集中していくと、頭の中でもやもやとわだかまっていたものが、少しずつ消えていく。
 自分自身の意識すら感じられなくなる。
 ただ、肉体の機能を、前に進む事だけに集中する。
 そうやって考えを頭の中から押し出していくと、あれこれと振り回されていた場所から、自分自身に戻っていくような気がしてくるから不思議だ。
 考えないのが自分なのか?
「よう、ユータ」
 声を掛けてきたのはサカガミだった。
 サカガミは僕に二日遅れて管理業務を手伝うようになり、最近になって仕事についても含めて、話をする機会が増えていた。
 実を言えば僕がサーキットを走り始めたのは、彼の誘いに乗ったのがきっかけだった。
「やっと追いついたよ。お前、なんか急に足が速くなってない?」
 言いながら僕と並走する。
「何か用か?」
「いや、小耳に挟んだ事があってな。ちょっと、休憩しないか?」
 サカガミはもう息が切れていた。
「わかった。もう一周してくるから、待ってて」
 僕はそう言い捨て、間の抜けたサカガミの返事を後に、更に加速した。
 もう一度だけ頭を空っぽにして、それから戻ろうと思っていた。
 サーキット・リングの中に一ヶ所だけある給水ポイントには、他には誰もいなかった。他のみんなは何かしらクラスのカリキュラムを消化している最中だ。誰もいない施設、設備をほぼ独占的に使用出来るのは、管理業務を手伝っている僕らだけに可能な特権みたいなものだ。
 手持ちのボトルに水を補給し、床に腰を下ろして、ふたり並んで壁に寄りかかる。
「で、話ってなんだ?」
「噂の真相って奴さ。お前、なんか聞いたか?」
「いや、さっぱり」
 そこでサカガミは声を潜めた。
「どうやら地球降下作戦がとうとう動き出すらしい」
「ああ、そうなの」
「そうなのってお前、何、その反応?」
「だって、そんなの想像つくだろ」
「冷めてるなあ」
「誰から聞いた?」
「いや、リングの回転軸の稼働点検してる時に、俺が居るの気付かないで教官たちが話してるの聞こえちゃったんだよ」
「詳細は?」
「いや、そこまでは。でも」
「うん。雰囲気からして、そう遠くないだろうな」
 そこでサカガミは、ちょっとわざとらしい感じの溜息をついた。
「俺達は、どうなるんだろうな」
「どうもならんだろ」
「ユータ、ほんとに何も知らないのか?」
「知らないよ。そう言ったろ」
「そうか……お前は艦長に気に入られてるから、なんか聞いてるんじゃないかと思ってたんだが」
「俺が? なんで?」
 僕がそう言うと、サカガミは胡乱な目で僕を見た。
 が、しばらくすると今度は本物の溜息をついて、
「おまえ、そういうとこあるよな」
 と言って僕の肩に手を置いた。
「何の話だ?」
「いや、気にするな」
 サカガミはそう言ってボトルに差したストローからじゅうじゅうと音を立てて水を飲み干した。
「なあ、ユータ。地球に降りられるとしたら、お前、どうする?」
「無理だよ」
「可能性の話だ」
「サカガミは、どうなんだ」
「もちろん、降りるさ」
「帰る国も無いのに?」
「そんなの、関係ねえよ」
「あるだろ」
「少なくとも、ここから見る地球には国境線なんてないんだ。いっぺん降りちまえば、後はどうとでもなる。どうとでも、してみせるぞ」
「前向きだな」
「そういう性分なんだ」
 性分ね……と、胸の内で相槌を打って、僕は自分のボトルの中身を飲み干した。

 シャワールームで汗を流した後で、展望台に上った。
 何の気もなく、ただ人がいない時間に展望台の風景を楽しみたかっただけだったのだが、先客がいた。
 エリザだった。
 僕は床を蹴って彼女の近くまで飛んでいった。
 エリザの方も、窓に映った僕を見て気付いているようだ。
 避けられている気配は無いが、いつもより、ちょっとだけ距離を置く。
 窓のところへ。
 肩を並べる。
「具合はいいの?」
 取りあえず、そう聞いた。
「うん」
 エリザは答えた。
 そんなに長い間離れていた訳では無いのに、とても久しぶりに声を聞いたように思えた。
「ごめんね」
「何が」
「いろいろ。最近……」
「今日は、いいの?」
「ちょっと、混乱してたの」
「混乱?」
「昔の話、した事あったよね」
「火事で、家族を亡くしたって話?」
「うん。それで、そのあたりから以前の事を、何も思いだせない。思い出す事が出来なかった」
「出来なかったってことはじゃあ、記憶が?」
「少し。ねえ、私、ユータに話してない事がまだまだたくさんある」
「僕だって、地上に居た頃の事を何もかも覚えている訳じゃないよ。思い出せない事もあるし、話してない事だっていっぱいあるけど、それはお互い様だと思うし。そんなこと気にしてたの?」
 僕がそう言うと、エリザはいったん口をつぐんだ。
 適切な言葉を探すように、視線を横に動かす。
「みんなの顔が、浮かんでくる。でも、ぼんやりしてる。思い出そうとすると頭が痛くなって、考えるのが辛くなる。辛いのに、やめられない」
 エリザはどこか部屋の隅っこをみていた。
 その表情には、深い疲労が表れていた。
 よく見ると、まだ顔色が悪いし、しばらく見ない内に随分痩せてしまっている。
「しばらく、何も考えないで休んでみてもいいんじゃないか?」
「それはできない。だって、私、愛されていたんだもの。ぼんやりとはしてるけど、思い出の向こうで、確かに感じられるの。私は、愛されていた。家族のみんなに。いろんな人達に……思い出したいの。思い出さないといけないの」
 エリザは何とか感情を抑えようとしていたようだったけど、あふれた涙が瞳の周りで粒になって宙に浮かんだ。
「ママ、パパ、おばあちゃん……」
 僕は震えだしたエリザの体を引き寄せ、腕の中に抱いた。
 弱々しい嗚咽が止まらなかった。
「帰りたい。帰りたいよう」
 エリザは、幼い子供のように、泣き出した。
 僕は彼女を落ち着かせようと思いながらも、彼女が少し前とはまったくの別人になってしまった気がして、その事に愕然としていた。
 いま、何かを言うべきだろうか?
 だとしても、どんな言葉を掛けたらいい?
 困惑のまま、無言の時が流れ、その沈黙はまるで別の方向から破られた。
 ステーション全体に呼びかける館内放送が流れ、僕を含む管理業務に従事する数人のメンバーの名が呼び出された。



〈7へ続く〉

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〈4から続く〉

 焼き尽くされた家の前で、私は立ち竦んでいた。
 そこにあったはずの我が家、いつも可愛がってくれたおばあちゃんや、大好きだったおかあさん、おとうさん。
 みんないっぺんに居なくなってしまった。
 そう言われてもその時は、何の事だか分からなかった。
 何が起きたのかも理解出来ずに、呆然と焼け跡を眺めていた。
 誰かが私の肩に手を置いた。
「おかあさん」
 そう思って振り向いたけど、居たのは隣に住んでたおばちゃんだった。
 おばちゃんは泣いていた。
「ごめんね。おかあさんじゃなくて……」
 と言って、私を強く抱きしめた。ごめんね、と繰り返しながら。
 何でおばちゃんが謝るのか、不思議だった。
 それから、いろんな事がたくさんいっぺんに起きて、私はいつの間にか『遠い親戚』というおじさんとおばさんに連れられて、知らない街へ移った。
 それからしばらくして、キラキラしたレストランで見た事もないようなご馳走を食べさせてもらえた。
「あなたにはお礼を言わなくちゃいけないわ」
 とおばさんが言った。
「どうして?」
 と私が聞くと、
「あなたのおかげで生活に潤いが出るのよ」
 とおばちゃんは言った。
 私は、その言葉が嬉しかった。とても温かい言葉に思えた。
 その日はホテルに泊まって、ふかふかしたベッドでぐっすりと眠った。
 そして次の日、私は宇宙へ上げられた。
 政府の管理する宇宙航空基地で慌ただしい手続きを終えた後、私は制服を着たお役人の前に突き出された。
「支給金の振り込みはいつになるんだ」
 おじさんが役人に聞いた。
 役人は苦い顔をして「あっちで聞いてくれ」と言ってどこかを指さした。
 おじさんはすぐにそっちへ向かっていった。
 おばさんは私の頬を指先で軽くつまみ、
「ありがとうね。ゆっくりおやすみなさい」
 といっておじさんの後を追っていった。
 それが別れの言葉だった。
 おじさんも、おばさんも、一度も振り返らずに行ってしまった。
 走り始めたスペースプレーンの中で、私は急に悲しくなった。
 座席の正面には壁一面に広がるくらいの大きなスクリーンがあって、そこに滑走路周辺の外の風景が映し出されていた。
 機体が離陸すると、地面は瞬く間に離れていった。
 地上のひとつひとつの建物が、もう形も分からないくらいに小さくなっていってしまった時、私はやっと理解した。
 もう二度と、おかあさんにも、おとうさんにも会えないんだという事を。
 火事で家が焼けてから、その時になって初めて涙が流れた。
 一度涙が溢れると、いつまでもいつまでも溢れ続けた。
 大気圏を離れても、私はずっと泣き続けていた。


 いつまでたっても、エリザはやって来なかった。
 僕は独りで船窓から地球を見下ろしていた。
 かつての故郷が地平線の向こうから現れ、目の前を通過し、反対側の地平線に流れて行く様をじっと眺めていた。
 でも、そんなことをしていても、すぐに飽きてしまう。
 艦長の言うように、もう慣れてきてしまったのかもしれない。
 月見の展望台での一件から、エリザは時々思い悩むような顔を見せるようになった。
 始めの内は体調が良くないのかと思って気を遣っていたけれど、彼女は次第に部屋に籠るような事が増えてきた。
 僕は何度かエリザの部屋まで様子を窺いに行ったのだが、
「なんでもないから」
 と追い返されてしまう。
 ひどい時にはドアを開けてくれる事すらしない。
 彼女と同じ部屋の女の子に様子を訊ねてみても「よくわからない」と言う答えしか返ってこなかった。元々あまり話をしないのだという事を聞かされ、逆に僕の方が彼女に何かしたんじゃないかと揶揄される始末だった。
 急に彼女との距離が遠ざかってしまった気がした。
 話もさせてくれないのでは、こうなった理由が解らない。
 そんな訳で訳の分からなくなった僕は、慣れ親しんだ慣習に活路を求めていつもの場所で地球を眺めていた訳だけれども、どうやら効果無しだ。
 今日も、彼女が現れる気配はない。

 一方で、ステーションの中には奇妙な空気が流れていた。
 ステーションの職員たちが、通路の隅で声を潜めて話をしていたり、何人かが固まってバタバタとした雰囲気で移動している姿をよく見かけるようになった。
 月の基地とステーションを往復する連絡艇が何度も目撃され、月見の展望台の利用者が増えた。
 僕らは、あれこれと噂した。
 何かが起きるんじゃないかと、誰もが思っていた。
 管理業務を手伝っている僕の所には、何か知っている事は無いのか、と毎日のように話を聞きに来る奴が訊ねてきた。
 しかし僕の所には、彼らが聞いて喜びそうな情報は何も伝わって来てはいなかった。
 こっちが聞きたいくらいだ。
 と言っても、僕は事態の推移にはさほど関心を払っていた訳では無い。
 冷静に考えればだいたい想像はつくし、みんなが噂している内容も、ほとんどがひとつの結論に辿りつくような話ばかりで、ただみんな、その話をネタに楽しみたいだけなのだ。
 どっちにしたって、僕には関係のない話になる。
 それにしても教官たちの口の堅さは流石と言う他は無い。
 中には色仕掛けで一部の教官から情報を引きだそうとした強者の女の子がいたらしいが、軽くあしらわれてしまって逆にヘコんだ、なんて噂もあった。
 きっと艦長の監督が行き届いているのだろう。
 艦長と言えば、僕はよく話しかけられるようになった。
 簡単な挨拶を交わすと言うぐらいのものがほとんどなんだけど、とにかく僕の顔を見ると何かと声を掛けてくる。
「よう、元気か?」
「サボるなよ」
「やる気があるなら、仕事増やしてやるぞ」
「もっと楽しめよ!」
 エトセトラ、エトセトラ……
 しばらくは鬱陶しい気もしたけど、やはりこれも慣れた。
 人間は何にでも慣れていける。




〈6へ続く〉

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