超短編! -10ページ目

超短編!

短編小説、中編小説、映画の紹介記事とかを思うままに書きなぐってます

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〈3から続く〉

 食事を済ませた後、待ち合わせの場所でエリザと合流し、展望室へ向かった。
 展望室からは月がよく見えて、ステーションに居る候補生たちの間では、「月見の展望台」と言う風に呼ばれていた。
 展望室よりは展望台って言った方が地球っぽいって話で。
 強化ガラスの天井がドーム型になっていて、その眺望は天然のプラネタリウムと言うところ。この一室は食堂並の広さを誇り、ガラスと床が接地する所には、いくつか種類の違う観葉植物が飾られている。
 ほとんど満月に近い月が、窓の向こうで美しい光を放っていた。
 僕らが月を眺める時、そこにはある種のノスタルジックな感慨が伴う。
 あの月の裏側、地球からは見る事の出来ない夜の半球に、コールドスリープの施設があって、そこで僕らは眠っていた。
 目が覚めて、体が動くようになると、宇宙船に乗せられ、このステーションまで運ばれてきたのだ。
 無言の光を浮かべるその球体を眺めていると、不思議と心が静かになっていく。深い沈黙が体の内側で神経に染み渡っていくような感じがする。
「百年の眠りと、死との間にある違いは何だろう」
 そんなことを口にしていた。
「死んだら起きられないわ」
 とエリザが言った。
 確かにその通りだ。
「もし一度死んで、生まれ変われるとしたら、その百年の間に僕らはもう一度新たな人生を始める事が出来たかもしれない。そう考えてしまうと、僕らが眠っていた時間はなんて無駄なんだろうと思えてくる」
「無駄なんてことないわ」
「そうかな」
「だって、そうでしょ」
 エリザが体を寄せてきた。
 僕は月から目を離し、エリザと視線を交わし合った。
 何かを訴えるような瞳がそこにある。
 宇宙と同じくらい、底の見えない奥行きがある。
 真っ青な宇宙だ。
 今にも吸い込まれそうな。
 この中に飛び込めば、すぐにでも異次元の世界に飛び立てるだろう。
 そんな気がした。
「そうだね」
 僕は答える。
「僕はきっと間違ってる」
 その時、窓の外に光を感じた。
 一隻の船が窓の端に見えていた。
 船体に太陽の光を反射させながら、ステーションから分離して行く。
「何かしら」
「月への連絡艇じゃないかな。前に一度見た気がする。もっともその時は覚醒直後だったから、ちょっと記憶があやふやだけど。あの大きさからして最小限の人員と推進剤しか積めないはずだし」
「へえ、私、初めて見た。月に行くの?」
「まあ、そうなんじゃない?」
「何しに行くの?」
「さあ。僕には分からないよ」
「まだ、次の覚醒周期まで、時間あるんだよね」
「うん。確かに、時期的にはおかしいな」
「何かあったのかな」
 矢継ぎ早に聞いてくる。
「どうしたの? 気にし過ぎじゃない?」
「そう?」
「うん」
「変?」
「ちょっとね」
 僕はふざけた感じで人さし指を頭に向け、指先をくるくると回して見せた。
「こら!」
 エリザが僕の手を掴もうとする。
 窓の外にまた違う色の光が見えた。
 連絡艇がエンジンに火を入れたようだ。
「あ、ほら。出発する」
 僕が言うと、エリザも振り向いた。
 連絡艇が徐々に加速して、ステーションから離れて行く。
「あ……」
 エリザは口を半開きにして、その姿を目で追っている。
 僕は途中から連絡艇はどうでもよくなって、エリザの横顔を覗き見ていたが、その表情がふと曇った。
 表情だけでなく、体がこわばっているようだ。
 声にならない呻き声を漏らして、エリザはこめかみの辺りをを押さえた。
 ただ、視線は連絡艇を追っている。
「どうした?」
「ちょっと、頭痛いかも」
「大丈夫か? 医務室に行くか?」
「ちょっと待って」
 エリザはいったん目を閉じて、空中でうずくまるようにした。
 しばらくそうしていた後、ふううううっと長い息を吐いて
「大丈夫」
 と言った。
 笑顔だったけど、明らかな狼狽の色が混じっていた。
 初めて見る表情だった。
「やっぱり、医務室に行こう」
「大丈夫だってば」
 エリザは僕の脇をすり抜けて、窓の所に取りついた。
「もう、あんなに離れてる」
 連絡艇は既に遠く離れ、小さくなっていた。
「みんな、行っちゃうんだ」
「みんな?」
 僕は聞き返したが、エリザはそれ以上何も言わなかった。



〈5へ続く〉

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〈2から続く〉

 ひと通り点検を終えて時間を確かめると、予定時刻よりも一〇分ほど早く作業を終える事が出来ていた。
 この後は食事の時間まで、何もやるべき事が無い。
 僕はプラントの連結スペースの床面に体を横たえ、そこにある小さなガラス窓から外を眺めた。リングが回転しているから、星がぐるぐると回っていく。
 さすがに目が回るなあ、などと考えていると、
「邪魔していいかな」
 と声がした。
 見ると、通路の入口に艦長が来ていた。
「あ、はい。すみません」
 一瞬、どういう体勢で応対すればいいか分からなくなる。
 取りあえず、床に足を着いて立ち上がった。
 艦長も天井から降りてきて、足を着く。
 立って向き合う。
「いちおう仕事は予定通り、終わりました」
「そうか。もう慣れたか?」
「だいぶ」
「まあ最初の内は急がずやってくれたらいい」
「はい」
 教官が作業の様子をチェックしに来る事はたまにあるのだが、まさか艦長が直接顔を出すというパターンは想定していなかった。
 直立の姿勢で次の言葉を待ってみる。
 何をしに来たのだろう?
「私も、宇宙に出たばかりの頃はよく窓の外を眺めていたよ」
 艦長はそう言って窓の側にしゃがみ込んだ。
「そうなんですか」
「うん。いくら眺めても飽きなかったな。さすがにもう慣れたけど」
 艦長はそう言って窓を覗き込んでいた。
 僕は何と答えたらいいか分からない。
 そもそも、何も聞かれていない。
 そのまま立って待つ。
 沈黙。
 目の前でしゃがみ込んだ大人を見下ろしているのは、何だか変な感じだ。
「君は、どうしてこの仕事をやろうと思ったんだ?」
 と、しゃがんだままの艦長が言った。
 どうしてと聞かれても、答えは一つしかない。
「艦長の提案があったからです」
 僕はそう言った。
「うん。まあ、そうなんだが」
 言いながら、艦長は立ち上がる。
「私が今回の提案をした時、君はすぐに『やる』と言った。迷いすら感じさせずに。それについては、私たちとしてはありがたい事だった。反発を覚悟した上での苦渋の決断だったからね。逆に『話が違うじゃないか』と罵られる事を予想していたんだよ。でも、君が『やる』と言った事で、他の皆も我々の提案を、少なくとも選択肢の一つとして受け入れてくれた。それは感謝しているんだ」
 意外な言葉だった。
 僕は反発など微塵も感じていなかった。
「君の決断は速かった。それは称賛に値するほどの速さだった」
「それは、どうも……」
「でも、気になるんだよ」
「気になるとは?」
「決断と言うよりは、諦めが速い。そう見えたんだ」
 そう言って艦長は僕の目を見据えた。
 その指摘はある意味で当たっている。
 僕は地球に何も期待していない。
 でも、ここで認めたらどうなるんだろう?
 説教でもされるのだろうか。
 それはちょっと面倒だ。
「気のせいですよ」
 僕は不自然にならないように、おどけた感じの明るい笑顔で応えた。
 艦長は何も言わずに圧力のある視線を送ってきていたが、やがて
「それならいいんだ」
 と言い残して去ろうとした。
 が、思い直したように戻ってきた。
「フラワルドと言う言葉を、聞いた事は無いか?」
「フラ……? 何ですか」
「今は公には使われない言葉だが……」
 艦長は少し言いにくそうにしていたが、すぐに切り替えたようだ。
「君達に託された呼び名だ。古代に栄えた宗教世界の神話に登場する、聖霊の名前さ。人の誕生後、常にその人と一緒に行動し、守護霊として一生を共に過ごす。人間が善を選択する知性を持っていると言う事を現している存在でもある。フラワルドを祭る信仰は、君達の国にあった「盂蘭盆」の習慣の起源だったと言う説もある」
「知らなかったです。初めて聞いたと思います。盂蘭盆って、お盆の事ですよね。迎え火を焚いたりする」
「そうだ」
「詳しいんですね」
「ま、色々と調べてな。どう思う?」
「どうって?」
「今の話を聞いた感想は?」
「ちょっと偽善的ですかね……大人の都合で勝手な事を言ってる、と感じます」
「そうか……そうだな」
 艦長は何かを考えているようだったけど、よく解らなかった。
 そんな建前の話を聞かされても、僕には何とも答えようが無かった。




〈4へ続く〉

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〈1から続く〉

 一日の始まり、まどろみの中。
 意識の焦点がなかなか定まらないでいると、コールドスリープから目覚めた時の事を思い出す事がある。
 薄闇の中、体にはいくつもの管が繋がっていた。
 食事代わりの栄養成分や体組織を回復させる為の薬剤が、そこから体内に送られていたらしい。
 まだ、体はろくに動かない。
 始めに何を考えただろう。
 ここはどこ?
 私はだれ?
 いや、そんなことよりも、
 何かを考えつくまでの
 何も考えていない時間
 ただ目の前の何かを眺めていた時間が
 とても長くて……
 ただ眺めるだけの時間が
 ずっと
 ずっと……
 ずっと…………
 瞬きをして、私は意識を取り戻す。
 重い荷物を引きずるように、まどろみの中から抜け出す。
 大丈夫。
 私は私だ。
 鏡を見て確かめる。
 そんな風に、一日が始まる。


 まったくやる気の出ないまま、社会復帰プロセスのカリキュラムを漫然と消化する毎日が続いていた。
 おかげで成績は下がる一方で、このままではクラスランクを下げられて、エリザとも別のクラスに振り分けられそうな事態も考えられる。
 しかし、だからと言ってそうそう簡単に気持ちが切り替わる訳でもない。
 やはり、先日のニュースの影響が強いと言わざるを得ないのだろう。
 同じ状況の、つまりは同じ国の出身者たちは皆一様にガタガタと成績を落としていた。
 まあ、無理も無い。
 僕は元々やる気がある方では無かった事もあって、更にモチベーションの維持が難しかった。希望も道も無く、どこへ進めばいいと言うのか。
 溜息と共にくるくると指先でペンを回しつつ、何とは無く室内を見渡していると、隣のサカガミと目が合った。
 軽く肩をすくめて見せるサカガミ。
 薄っぺらい苦笑いを返した時、手元が狂って、回していたペンが講師のサリナスに向かって飛んでいった。
 ちょうど横を向いていたサリナスの鼻先をかすめて、背後の電子黒板にペンが突き刺さる。
 そこに表示されていた『異文化への相互理解』と言う文字の上に、亀裂が入った。

 教官室に呼び出されたのは、何故か僕だけでは無かった。
 サカガミ、ツチモト、イワクラ、ヨシイ……
 考えるまでも無く、同じ状況を享受する面子。
 どうやらただの説教では無さそうだと思っていたら、いきなり艦長が入ってきた。続けて教官たちがぞろぞろと入ってくる。
 待機していた僕らは、思わず顔を見合わせる。
 やがて艦長が壇上に立ち、僕らに向かって話し始めた。
「これから話す事は、我々から君たちへのひとつの提案だ。なんら強制するものでは無い。と言っても悪い話では無い。やってみて損にはならないと思う事だ」
 そうやって切り出された艦長の言葉に、僕らは黙って耳を傾けた。

「……それでそんなことしてるの?」
「うん。僕は、特に悩む事ないと思ったからね」
 栽培プラントは、本の代わりに植物の入ったコンテナを詰め込んだ図書館みたいになっていた。各々のコンテナに照明装置が設置され、光の調整ができ、同様に水道の管理もされている。
 棚と棚の間の通路には、緑の葉がふさふさとはみ出していて、何故か僕はこの光景に愛嬌のようなものを感じている。
 プラント自体がステーションを中心にして取り囲む円形のリングになって回転している為、その外側の内壁には遠心力による慣性重力が働いていて、足を着いて歩く事が出来る。同じ形のリングがもう一つ、プラントの隣にあって、そちらはフィジカルトレーニングの為の施設、「サーキット・リング」と呼ばれている。
 プラント・リングの内部はいくつかのブロックに分割されていて、ブロック毎に室内環境が違い、それに応じて栽培されている作物の種類も違う。
 ブロックの連結部分には小さなスペースが確保されていて、天井にステーションへ通じる通路があり、その通路がリングの回転軸と栽培プラントを繋ぐ構造にもなっている。
 僕はその細長く湾曲した図書館のような農場で、コンテナを載せた棚の側面に表示されているメーターの数値を確認しながら移動していた。
 どこも特に異常は無い。
 数日前に告げられた艦長の提案とは、簡単に言えば「管理業務を手伝わないか?」と言う事だった。その場ですぐに提案を受け入れる事を表明した僕に与えられたのが、栽培プラントの管理の仕事だった。
「でも、ある意味、ひと足飛びに昇進したみたいなものじゃない」
「そう……言えるのかな」
 確かに、そう言える一面はある。
 作物の収穫と運搬は持ち回りの当番制になっていて、これまでにもカリキュラムの一環として何度か経験していたが、運営サイドで管理業務に携わるのは初めてだった。今回の事がなければカリキュラム修了前にこのような経験をする事はなかっただろう。
 艦長の話ではカリキュラムの進捗に若干の遅れが出る事もあるが、給料も出すと言う事だから、怪我の功名と言えなくもない。
 でも、僕以外の面々は即答を避けた。
 皆地球に降りたくてここまでやって来たのだ。
 ステーションでの管理業務に就くということは、地上に降りずにこのステーションに居続ける準備をしているみたいなものだ。実際艦長もその可能性を示唆していたし、現実的にはそうなる可能性が高い。
 地上の政治のいざこざで帰還計画が大幅に遅れているとは言え、誰もが地球に降りる事を前提にやっている。
 諦めたくないのだ。
 はなっから地上に期待していない僕とは訳が違う。
「やっぱり、昇進と言うのは違うと思うよ」
 と、僕はエリザに言った。
 彼女は僕が新しい仕事を始めたと言うので、興味本位で覗きに来たのだ。
「そうかな」
「ただ状況が違ってきた、と言うだけの話だよ」
 僕がそう言うとエリザは鼻を鳴らして腕組みをした。
 何か考えている。
 僕は淡々と、手元の端末で確認を済ませた項目にチェックを入れていく。
「それ、難しいの?」
「いや、簡単。エリザなら二分で全部覚えられる」
「ほんとに?」
「うん」
「あたしもやってみたいな」
「艦長に頼んでみれば?」
 僕がそう言うと、エリザは端末を覗き込みながら、ううんと唸った。
「一緒に作業出来るなら、僕は楽しくていいけどね」
「ほんと?」
 僕は頷いた。
 エリザは頬を緩めて笑顔で応えた。
「私、そろそろ行くね。次のクラスが始まる時間だから」
 ひとつのブロックの点検を終えた所で、エリザは軽くジャンプして、天井部分のステーション本体へと繋がる通路のハッチに飛びついた。
「エリザ」
 僕は呼びかける。
 エリザは通路の向こうに半分消えた体をくるっと回転させて、もう一度顔を出した。
「後で月を見に行かないか」
「うん。じゃあ、ご飯の後で」
「いつものとこで」
 手を振ると、エリザはまた通路の向こうに姿を消した。




〈3へつづく〉

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