猫背のフランス人男がボタンを押すと、ブザー音と共に「ガチャリ」と音がした。

どうやら扉のロックの音のようだ。


男は扉を開けて中に入ると、1人分の幅の階段を上っていった。

扉はすぐに閉まって男の姿は見えなくなる。

扉の横の小さな表札にホテルの名前が書いてあった。


「Buttees Chaumont」


先程のマクドナルドから、ほんの50メートルほどの場所にホテルはあった。

(こんなに近くにあったのに地下鉄に乗れなんて・・・)



入り口は普通のアパートのようだが、どうやら間違いなさそうだ。

先程のフランス人の真似をしてブザーを押すと、ブザー音が鳴った。

「ブーーー ガチャリ!・・・」

よし!

そう思って扉を引いてみたが、扉は動かなかった。

タイミングを逸したようだ。


仕方ないので、戸惑いながらももう一度ブザーを押す。

「ブーーー・・・」

(今だ!!)

扉が開いた。

(どうだ!ざまー見ろ!)

扉に勝った。



ブザー2回押しちゃったから受付で嫌な顔されるかな~?

受付は温厚なおばちゃんとかだといいな~。

そんな風に、例によってしょぼくれた思考で階段を上がるわけだが・・・


待っていたのはいかついオヤジ。

思うようにはいかないのだ。


オヤジにチェックインの為のホテルバウチャー(予約及び料金支払済みの旨が印刷された紙)を渡す。

フランスオヤジはバウチャーを受け取ると、下を向いたまま宿帳か何かと照合している。



「ジャ ポン・・・」

オヤジが下を向いたまま野太い声で呟く。


「ウ・・・ウィ!」

(はい!)



こちらが返事をするとオヤジは顔を上げた。

そして急に叫ぶ。


オッス!!


胸の前でクロスさせた手を脇の下まで引くと笑顔で言った。


「あってるか??」



(イヤイヤ・・・あってるも何も・・・汗


どうでもいいので、笑顔で親指を立てておいた。



とりあえず、さっさと部屋に入りたいところであったが、オヤジはご機嫌の様子で奥のほうになにやら話しかけている。

なんだかよくわからないフランス語が飛び交っているが、ところどころ「ジャポン」と聞こえる。

そのうちに会話の相手も姿を現した。


若くて背が高いフランス人。

卑屈な笑みを浮かべている。


それは、先程の猫背の男だった。


ホテルの従業員だったのか!?



・・・つづく


パリの空の下。

生まれて初めて吸いこんだパリの空気は、冷たくて湿った空気。

髪の毛くらいの細い雨が途切れ途切れで降っていた。


はんぺんみたいにカドが取れた小さな四角が並んだ石畳は、雨に濡れて黒く潤んでる。

キャリーバッグの車輪がはんぺんとはんぺんの隙間を越えるたび、ガツンガツンという音とともに振動が伝わってきた。

手のひらから定期的な振動が伝わってくるうちに、遊園地のアトラクションカーに乗ってパリの街中を進んでいるような気分になってくる。

キャリーバッグを引きずっている自分だけが浮いていた。



メトロの7b号線Bolivar(ボリヴァール)、そこから隣の駅のJaurès(ジョレス)までの間にその日泊まるホテルがある。

ホテルの名前は「Buttees Chaumont(ビュット・ショーモン)」。

ジョレスとは逆側のボリヴァールの隣の駅、そしてそこにある大きな公園と同じ名前だ。


夕方の通りには、買い物客や帰宅途中の人などで賑わっている。

どうやらこの場所は観光地ではなく、目の前の風景はパリの日常のようだ。

レトロ感が漂う街並みは立ち止まったらモノクロに変わりそうな気がして、雨に濡れながら歩き続けた。



しかし、歩いても歩いてもホテル「Buttees Chaumont」は見つからない。

そのうちに隣駅のジョレスまでたどり着いてしまった。


ホテルはボリヴァールとジョレスの間にあるはずなのに・・・

ホテルバウチャーの地図とにらめっこしながら右往左往していたのだが、お手上げ状態。

確かにすぐそばにホテルがあるはずだ。


仕方がないので、歩いてきたとおりの終わり、角にあるマクドナルドの壁の突き出しに腰掛けていた暇そうな老人に、地図を見せながら尋ねた。


「このホテル、どこにあるかわかりますか??」


老人は地図をまじまじと見つめ、ホテルの名前を見つけた。

「ブッ ショーモ!!」


道路を挟んだ先にあるジョレスの駅を指差し、そこからメトロに乗れと言う。

2つ隣の「Buttees Chaumont」駅に行けということらしい。


確かに、ホテルの名前は公園と同じ「ブッ ショーモ」なんだけど・・・


「そうじゃなくて、ホテル ブッ ショーモ!」


「ノーン!ブッ ショーモ はここじゃない!メトロに乗って2つ先だ!!」

老人は譲らなかった。


議論は繰り返されたが、ホテルの場所が変わるわけでもない。

仕方ないので礼を言って、ジョレスの駅の方向に歩く。

そして、老人が目を離した隙に踵を返して元の通りに戻った。



どうしよう・・・


再び老人に見つかったら、こちらが説明を理解してなかったと思い、きっと追いかけてくるだろう。

「ブッ ショーモ はここじゃない!!むかっ


キャリーバッグは目立つし、角のマクドナルドには近寄らないほうがいい。





通りに閉じ込められた!!




つづく・・・


今日はちょっと趣向を変えて、ジョークを1つ紹介します☆

(知ってる人もいるかもしれませんが・・・)






ある豪華客船が後悔の最中に沈みだしました。

船長は乗客たちに速やかに船から脱出して海に飛び込むように指示しなければなりません。

そこで、船長はそれぞれの外国人乗客にこう言いました・・・





アメリカ人には

「飛び込めばあなたは英雄ですよ!」





イギリス人には

「飛び込めばあなたは紳士です!」





ドイツ人には

「飛び込むのがこの船の規則となっています!」





イタリア人には

「飛び込むと女性にもてますよ!」





フランス人には

飛び込まないでください!」





日本人には

みんな飛び込んでますよ!」







・・・あ、僕が考えたわけじゃないですよ。