イタリアの魅力の1つは、その多様性にあると言える。

ひと言にイタリア、イタリア人と言っても、訪れる場所によって印象は違ってくる。

その差異は想像以上だ。

例えば、ちくま新書「イタリア的考え方」の著者の記述によると、イタリア「ラヴェンナ」の著者は「イタリア南部の「シチリア島」で使われる言語よりも、勉強したことがないのに、スペイン語とかポルトガル語のほうが分かりやすい気がする。」と述べている。

イタリア的考え方―日本人のためのイタリア入門 (ちくま新書)/ファビオ ランベッリ
¥714
Amazon.co.jp


日本の国境線はすべて海で囲まれているので、日本人の自分としては国境というものは非常に大きな意味を持っている。

国内と海外、日本人と外国人、その差は明らかだ。

陸続きのヨーロッパでも国境は大きな意味を持っているとは思うが、日本のそれほどではないと思う。

国単位の境界線よりも、近い遠い、知り合いが多い少ない、といったことのほうが重要なのではないだろうか。



ミラノ中央駅に着いた時は、辺りはもう暗くなっていた。

駅を出て最初に目にしたのは、なぜかゴミ捨て場。

目的の出口と違うほうに出てしまったみたいだけど、国際的に有名な都市で初めて目にしたものがゴミの山か・・・

間違ったら引き返すのが賢明。

駅に戻って、違う出口から出たら大きな広場に出た。

ローマやフィレンツェのように人で溢れてはいない。

大きな広場を進むと、イタリアでは始めてみるような近代的なビルが立ち並んでいた。

他の都市とは違う近代的な街並みは、日本で言うと名古屋駅周辺くらいのイメージだろうか、自然に馴染むことができた。


その日のホテル「Canova」(カノーヴァ)の場所は、駅から近くてすぐに分かった。

ネット画像で見ると、自動ドアのガラスにへんてこりんなフォントの文字が書かれていたので、また中国系ホテルかと思っていたが、どうもそんな感じではない。

カウンターでは背の高い黒人スタッフが対応してくれた。

そういえば、とそのとき気が付いたが、それまでイタリアでは黒人に出会うことがなかった。

カウンターには、いつものように「ブォナセーラ!」(こんばんは)と、いかにもしゃべれなそうなイタリア語で挨拶をしたが、彼は流暢な英語で返してきた。

しまった!

いつもならば、イタリア語をほぼしゃべれないのはしょうがないねって感じで、身振り手振りを交えて下手くそな英語で対応できたのに。

彼は、流暢な英語を使いこなしているのがホテルのフロントのステータスという雰囲気でまくし立てるように話しかけてくる。

流暢すぎて聞き取れないよ・・・

ゆっくりしゃべってくれと伝えたら、少し驚いたような表情をしていた。

え?英語できないの?といった感じか。

ムカー!バカにしやがってー!

でも、バカにされるような語学力だからしょうがない。

いつものようにバウチャーとパスポートを渡すと、パスポートをチェックするのに時間がかかるから部屋で待てと言われた。

パスポートを手放すのは不安だけど、うまく話せないから言うとおりに部屋で待つことにした。


部屋は、アメリカンスタイルというのか日本でもポピュラーなタイプの部屋だった。

鍵はカードロックで金庫もある。

同じくらいの値段だけど、ローマやフィレンツェで泊まったホテルとは全然違う。

久しぶりにリラックスすることができそうだ。

少し部屋で荷物の整理などをしていたが、パスポートのことが気になるのでフロントに行き、その足でスーパーに行くことにする。

フロントでパスポートを要求すると、こっちの心配をよそに「ああ、パスポート?」くらいの感じで後ろの棚からパスポートを返してくれた。

カードキーは自分が持っていていいということなので、キーをしまってスーパーに向かった。


ミラノ中央駅にくっついた形でスーパーがある。

先程ゴミ捨て場の出口から出たときに見つけた。

スーパーの入り口には、動物園の入り口などにたまにある鉄のバーがクルクル回るやつがあって、1人ずつ入るようになっている。

「こんなの必要??」

中に入って、炭酸抜きの水やビール、懲りずにモッツアレラチーズも手にしてレジへと向かった。

レジにはそれぞれ2、3人ずつ並んでいたので、適当な列を見つけ並んだのだが、いかつい男が2人、後ろからこっちに向かってやってくるではないか。


何事!?なんか間違ったことでもしちゃったかな?

すると、男達は自分の両側を通り過ぎて、前に並んでいた男の腕を両側から掴み、店の外へと連れ出した。

腕を掴まれた男は抵抗しながら必死に何かを叫んでいる。

何を言っているかは分からないけど、別に分かりたくもない。

あっという間の出来事であった。

いやー・・・汗

レジの順番が1つ繰り上がっていた。

会計を済ませて表に出て、少し足早にホテルのほうに向かった。


「夜は怖い。。。夜は怖い。。。」

油断大敵である・・・



つづく・・・

ある日のミラノ、朝。


次の日の早朝にレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」の予約を入れてあるので、あらかじめその場所を確認しておくことにした。

地下鉄に乗って数駅、ミラノ中央駅は中心部から少し離れている。


切符は1日券を買って地下鉄に乗ると、例によってもの凄い勢いで扉が閉まった。

挟まれると痛そう・・・

その扉がしまった途端、車内ではギター演奏がスタートした。

地下鉄の車内での話だ。

アコーステッィクギターを片手に熱唱している。

1つ隣の扉で始まったので何事かと始めは驚いたけど、歌もなかなかだし、ギターの音がすごくいい。

日本の路上では聴いたことがないくらいの、気持ちいい音がするギターだった。

電車の中だから路上よりはまだ音響がいいのもあるのかな?


2つ目くらいの駅に着く頃に丁度一曲演奏が終わり、ギターを弾いていた彼は紙コップを片手に乗客1人1人のところをまわりだした。

乗客は皆一様にしかめっ面で無視していたが、個人的には小銭を入れてあげたい気分だ。

明るく陽気な彼の歌はミラノでの朝の気分を楽しくさせ、キャッチーなメロディは帰国した今でも頭の中に残ってるくらいだ。

財布の中の小銭を出そうかと迷ったが、電車の中という閉鎖された空間で財布を出すことに危険を感じていたので、心の中で拍手を送りながらもそれを示すことはできなかった。


翌日の朝も利用するであろう「Cadorna」(カドルナ)という駅で降りて、とりあえず向かったのは「スフォルツァ城」。

ミラノの口コミでは、「最後の晩餐」と「ドゥオーモ」以外は特に見るところがないという意見をよく目にするが、西洋の城を見たことがない人間にとっては、この城を間近で見れることは素晴らしい。

ドイツではたくさん城を見たけど、大抵山の上にあって、行きにくかった。

「スフォルツァ城」は平地にあり、周りは堀で囲まれている。

城門に続く橋の前には、警察官が2,3人いた。

馬に乗ってる。

お城とマッチしててなかなかいい感じだ。

警官の横を通って城門を抜けると、中に美術館の入り口のようなものがあった。

「スフォルツア城美術館」では、レオナルド・ダ・ヴィンチ作の天井画やミケランジェロの遺作である「ロンダニーニのピエタ」などが観れるようだが、その時はそのことを知らず城の外観を見ただけで満足して美術館には入らなかった。残念。


「スフォルツァ城」に面してセンピオーネ公園という大きな公園がある。

芝生の緑がきれいなよく整備された公園で、城の逆側の端には凱旋門があった。

この凱旋門は「平和の門」というらしい。

時間があったので、「平和の門」まで歩く。

なかなか大きくて立派な凱旋門だ。


凱旋門の裏側は普通の街並みになっていて、路面電車が走っていた。

イタリアらしい普通の街並みを歩くのもなかなか楽しい。

その場所から「最後の晩餐」がある「サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会」まで・・・

ずいぶんと遠回りになってしまった。


途中、道が分からなくなって地図を広げていたら、親切な老人が道を教えてくれた。

彼が立ち去るときには何度か礼を言ったが、ボルサリーノにロングコートの老人は振り返ることなく、片手をあげる仕草で返事をした。

ミラノはオヤジだけじゃなくて老人まで渋くてかっこいい。

あんなふうに年をとれたら、やっぱりいいかもしれない。


つづく・・・

地下鉄「ドゥオーモ」の駅を降りて階段を昇ると、目の前にミラノのドゥオーモがあった。

フィレンツェのものと同じようにでかい!

しかし、見た目はまったく違った。

フィレンツェのドゥオーモはルネッサンスで、ミラノのはゴシック形式。

トゲトゲした尖塔型だ。

ガイドブックなどの写真のとおりなんだけど、その大きさと繊細さに圧倒される。

135基の尖塔と1245体の彫像が施されているらしい。

下から見上げると、細くて繊細な尖塔部分は台風などでポキポキ折れそうな気がする。

屋上にも上れるようなので、早速昇ってみることにした。


屋上に行くにはエレベーターと階段があるらしい。

警備員みたいな人に「階段はどこ?」と聞いてみたけど、階段は修理中でエレベーターしかないとのこと。

「ほんとかよ・・・??」

当然、エレベーターのほうが料金が高い。

料金を払ってエレベーターに乗り、屋上に出た。

エレベーターを出た場所は、なんだか狭い道になってる。

イタリアに来てから入場料を払って入った場所は、すべて期待以上だったけど、「まあ、こんなもんか」と日本の観光施設並みのスケールの小ささを感じた。

尖塔や彫像は近くで見ることができたので、何枚か写真を撮った。

一周したらエレベーターで戻るのかな?と思って歩いていると、まだ道が続いている。

だんだん眺めがよくなっていく。

そのうちに、「こんなとこも観れるのか!」と驚きながら、繰り返しシャッターを押すようになった。

少し階段を登ってまた歩いて・・・

フィルムの残り枚数が気になってきた。

眺めはどんどんよくなる。


一番上に辿り着いたときには、36枚撮りのフィルムの残り枚数は3、4枚くらい。

一番上は広いスペースが広がっていて、何本もの尖塔に、てっぺんに輝く「マドンニーナ」像も見える。

ミラノの街並みもそこから見渡すことができた。

ここもやっぱり予想以上だった。


先程までの道はちらほらとしか人がいなかったので、屋上は意外とマイナーなスポットなのかもと思っていたのだが、その場所は大勢の観光客で賑わっていた。

日本人も何組かいて、若いカップルがカメラを片手になにやら相談している。

ちらちらとこっちを見て話してるみたいなので、大方の検討はついた。

写真を頼みたいんだけど、日本人かどうか分からないんだろう。

カップルなど2人以上であれば、会話してる言語でどこの国の人間か分かるけど、1人で母国語を話してたら気持ち悪い。

別に暇だったので、「写真撮りましょうか?」とこっちから声をかけた。

読唇術でもできるのかと思ったのか、日本人だったのかと思ったのかなんだか知らないけど、なんかビックリしている。

写真を撮ってあげると、何度も「ありがとうございます」と言って最敬礼してる。

「命の恩人でもあるまいし・・・」

イタリアに来てからよっぽどひどい目にでもあったのか・・・

変な気分になったので、屋上を降りることにした。


つづく