通りは人で溢れていた。

すれ違う人たちはみんな楽しそうだ。

ドゥオーモからウフィッツィ美術館が面しているシニョーリア広場へと続く通り、それに平行してドゥオーモからポンテベッキオ(ベッキオ橋)まで続く通りには、様々なお店が立ち並んでいる。

ジェラート屋にトラットリア、靴屋、宝飾店、デパートなど・・・

世界中の人たちがショッピングや食事を楽しんでいる。

もちろん日本人もたくさんすれ違うし、日本語も聞こえてくる。


ウフィッツィ美術館の横にはアルノ川という川が流れていて、フィレンツェの街を分断している。

アルノ川にはいくつかの橋が架かっているが、その中でも有名な橋がポンテベッキオだ。

ポンテベッキオはアルノ川にかかる最古の橋で、橋の上にカメオなども扱う宝飾店が並ぶ。

夜は宝飾店は閉まっているが、橋の中央から川を見下ろすと、川はライトアップされていて美しい。

いくつものオレンジの光が、川の流れで少しだけ揺らいでいた。

川に浮かぶオレンジを見ていたら心が落ち着く。

イタリアでは、観たいもの、したいことがいっぱいあって、いつも時間を気にしながら動いてきたけど、こんな落ち着いた時間も楽しい。

周りから聴こえるイタリア語、フランス語・・・日本語も混じってる。

水面に映るオレンジの光。


ヨーロッパなんだなあと改めて思った。

賑やかな通りのディスプレイを眺めながらホテルに向かう。

途中、イタリアのブランド「REPLAY」のディスプレイに飾られたシャツはとても美しい刺繍で、日本ではお目にかかったことがなかった。

日本円で2万円以上だ。

とても気に入ったので欲しかったけど、旅の資金は限られてるし、日本でネットで探せば見つかるだろうと思って買わなかった。

しかし、帰国後探しても見つからない。どうやら全部が全部日本に入ってきてるわけでもなさそうだ。

部屋に着くと洗濯物に椅子は占領されていてベッドくらいしか居場所がない。

サイドテーブルをベッドに寄せて、生ハムを開ける。

美味い。

イタリアやスペインの生ハムは日本のスーパーなどでも売っている事があるが、日本で普通に生ハムとして売っているものとは別物だと思う。

日本の生ハムは刺身っぽいけど、イタリアやスペインのは干し肉っぽい。

個人的には断然後者の方が好きだ。

特にスペインのイベリコ豚の生ハム(ハモンイベリコ)は大好物☆

イベリコほどではないにしてもイタリアのももちろん美味しい。

そして、イタリアで買うとスーパーでずいぶんと安く買えるものがあるので嬉しい。

ワインはローマで買ったワインオープナーを使って開ける。

水牛のモッツアレラはフィレンツェに来たら食べたかったけど、どうも、こうやって食べるものではなさそうだ。

袋の中には水分と丸いモッツアレラチーズが入っている。

袋を破って水分を捨ててモシャモシャとかじった。

塩気と歯ごたえがある。

まあ、これはこれで・・・

そして、生ハムとワインを持ってベランダに出た。

窓からドゥオーモが見えればいいと思っていたが、端っこにある自分の部屋だけは他の部屋の前を通らなくても、ベランダ内のドゥオーモが見えるポジションにいける。

これはこれでよかったか・・・


外は寒い。

寒いけれど、壮大なドゥオーモの姿に見とれていた。

古典古代文化の再生を意味する、ルネッサンスの建造物であるドゥオーモであるが、夜の闇に浮かび上がるクーポラ(円形の部分)は近代的を超えて未来的にも見えた。

ワインのせいかもしれないけど、じっと眺めていると、あれは実はロケットで、宇宙に向かって発射するんじゃないかと思えてきた。

1時間くらいはずっと眺めていたと思う。
宇宙まで感じさせられたスケールの大きい建造物に出会ったのはこれが初めてだった。



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朝からワクワクしていた。


フィレンツェに着いてからはもう3日目。

前を通るたびに、ずっと気になっていた場所、「ウフィッツィ美術館」。

ローマのJCBプラザで予約(ある日のローマ11~トレビの泉(トレヴィの泉)~ )をしてもらったその日になり、世界的に有名なその美術館にいけることが嬉しくてたまらない。


「ウフィッツィ美術館」と言えば、先日所蔵作品の中の1つ、レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」が日本にやってきて、大変話題になった。

今回の旅はバチカン、フィレンツェ、ミラノ、パリ、とレオナルド・ダ・ヴィンチの作品を追う旅でもある。

当然、「受胎告知」など、ダ・ヴィンチの作品、ミケランジェロの作品も楽しみだが、一番観たいのは、歴史の教科書などにも載っているボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」だ。

貝殻の上にビーナスが立ってるあれである。


「ウフィッツィ美術館」の作りは「コ」の字型になっている。

実際は、「コ」の字の上と下の部分が五倍くらいは長いと思う。

「コ」の右側がアルノ川に面していて、左方面がドゥオーモだ。


JCBプラザの人に予約カウンターの場所を聞いたけど、日によって変わるとかでよくわからない。

日によって変わるなんて、イタリアだから適当なのか、イタリアに長年住んでるJCBプラザの人が言ってることが適当なのか・・・

まあ、こちらも適当に進入して行って、イタリア語やら英語を適当に混ぜて、適当に話しとけばいいだろう。

川の反対側から入って、左手にはチョロチョロと人が並んでる。

おそらくそこが一般の入り口だろうか。

左手奥のほうのガラス扉の向こうにはカウンターみたいなものが見えるので、そこに入ってみた。

カウンターで、リザーブだかリザベーションだか予約っぽい単語を適当に言ってみたら理解してくれたらしい。

予約番号を教えろということなので、ローマのJCBプラザで教えてくれた予約番号を書いた紙切れを見せて、チケット代を払った。

予約の場合は普通より料金がチョコッと高い。

早い時間だったからか、その時はたいして並んでなかったので予約しとかなくても良かったかと思った。

(しかし、その考えは改めるべきと2度目のフィレンツェ訪問時に思い知らされることになる。)


扉を出ると20代くらいの日本人男性の姿が目に付いた。

ドレッドヘアーにラスタカラー。

日本にいてもイタリアにいても自分のスタイルを貫いているようだ。

素晴らしい。

彼のことはレゲエ君と名付けることにした。

レゲエ君はゆるい動きで何かを探しているようであった。

おそらく予約窓口に違いない。

数分前の自分と同じだ。教えてあげるのが親切心である。

そこで、レゲエ君に数歩歩み寄ってみたが、一向に反応を示さない。

どうやらレゲエ君、はるばるイタリアまでやってきての日本人同士の談合などは、粋ではないと感じているようだ。

分からなくもない。

どこの馬の骨かもわからない自分などに、同じ日本人と言う理由だけで彼自身の世界を侵されたら、まったくたまったものではない。


「君ならできる!」

心の中で呟いていた。

予約カウンターが見つからないながらも、尚悠然と振舞うレゲエ君にエールを送りつつ、その場を後にして美術館の入り口に向かった。


つづく・・・

元来、宗教画よりも印象派、無宗教だから宗教画なんて分からない。

しかし、宗教が政治的に大きな力を持っていた時代に描かれた宗教画や、その時代に建設された教会に注がれているエネルギーは凄い。

時代のニーズがあるものはその技術力に関して言えば、淘汰されて高い水準を保つことになる。

例えば、個人的に言えばいわゆる現代アートというものにはあまり興味はないけれど、青山や銀座の建築物やその内装、J-POPアーティストのビデオクリップやらアルバムジャケット、洗濯機にプリンターのデザイン、今の世の中で必要とされてるものは高い規準で競争しているから、レベルの高さに驚かされることもある。


歴史や美術にもそう詳しくないし、宗教もわからないが、特別な思い入れを持たずに観れる(鑑賞する立場としては逆にそっちが特別と言えるかもしれないけど・・・)のはある意味幸せかもしれない。


ウフィッツィ美術館のコレクションは、宗教画、神話画、人物画など、イタリアのルネッサンス期の絵画を中心としたものである。

中でも背景が金ぴかの宗教画がたくさん目に付いた。

個人的には、これがイタリアっぽく(フランスっぽくない)て気に入ったので、ちょっと調べてみたら、金箔を使ったテンペラ画と言うことである。


「卵の卵黄の部分を、酢と混ぜ合わせ、撹拌したものを同量の水で溶いて、そこに顔料を加えて絵の具を作り、金箔を貼って磨いた板に絵を描く・・・」


・・・は??



それにしても、同じような絵、同じ場面を書いた絵がいくつもある。

「受胎告知」だってダ・ヴィンチだけじゃなくてボッティチェリのもあるし、マルティーニもある。

聖書って凄いなあ。


ダ・ヴィンチの絵画を観るのは「受胎告知」が初めてだった。

ヴァチカン美術館(ある日のローマ8~バチカン美術館~ )には「聖ヒエロニムス」という作品があるけれど、ガイドブックを持っていなかったうえに時間がなかったので、見つけることができなかった。

なのでそれが初めてとなる。


その絵は繊細で赤が際立ち鮮やか、こんなこと言うと怒られるかもしれないけど、なんだかスタイリッシュに思えた。

並べて置かれているダヴィンチ作の未完成品「東方三博士の礼拝」はカラーがないので鮮やかさがないし、師匠であるヴェロッキオとの競作「キリストの洗礼」は、現代から見れば宗教画としての古臭さがある。

しかし「受胎告知」は、最新のデザインとしても、スタイリッシュさとエレガンスまで感じる。

不思議だ。

この「受胎告知」は、大天使ガブリエルが聖母マリアにイエスの受胎を告知する場面であるが、ダヴィンチの絵では大天使、ガブリエルより聖母マリアのほうが偉そうだ。

構図上このほうがよかったのかな??

興味深く素晴らしい作品であったけど、その作品の前に人が集中することはなく、独り占めで見ることもできた。

さすが、その美術館には他にも世界的に注目すべき作品がたくさんあるし、偉大なレオナルドの作品も常設展示である。


その他の作品もゆったりと観ることができたが、タイミングによっては独り占めどころか黒山の人だかりで、後ろのほうから覗き見ることしかできない。

有名な美術館であるがゆえに、団体のツアー客が多いのである。

中でも日本人のツアーは多く感じ、日本人が海外で敬遠される理由のひとつが分かったような気がした。


さて、日本人の団体がいざ通れば時々は解説を聴き、見る順番を変えてタイミングをずらしたりしていたが、お目当ての「ヴィーナスの誕生」の部屋ではゆっくりと腰をすえることにした。

ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」の部屋には、彼のもう1つの代表作である「春~プリマヴェーラ~」もある。

両作品とも描かれた人物(神)のサイズが等身大くらいある大作である。

期待していたものというのは、想像ほどではなくがっかりするということが多々あるが、この作品や古代ローマ遺跡、ドゥオーモなど、イタリアでは想像を上回るスケールに驚かされることのほうが多い。

その部屋の真ん中にはベンチがあるので「ヴィーナスの誕生」が正面に見える位置に腰掛ける。

右手側を向くと「春~プリマヴェーラ~」がある。

なんという贅沢だろうと思った。

ボッティチェリの作品は他の誰にもないような個性があり、この頃の作品は非常に華やかで美しい。

現実と幻想の狭間にいるようなその部屋で、既にこの旅の目的が達成されたくらいの満足感を感じることができた。


ウフィッツィ美術館の展示室と展示室はそれぞれにつながっているが、いくつかの部屋からは「コ」の字型の廊下に出ることができる。

ボッティチェリの余韻を残して廊下に出ると、そこにはまた、期待以上のドラマが待っていた。


レゲエ君だ!


レゲエ君は相も変わらず無関心を決め込んで、その廊下をのそのそと歩いていた。

良かったレゲエ君、この建物に侵入することができたのだ!

レゲエ君もボッティチェリを観ただろうか?

感情を表に出さないその姿は達人級である。

そして、どうでもいいのだが、レゲエ君はちょっと「なすび」に似ていた。

美空ひばりさんのご子息にも似てる感じだった。



レゲエ君の無事な姿を確認して、胸の痞えが取れたような気分だ。

晴れ晴れとした気分で観るミケランジェロ、ラファエロ・・・・・・

ミケランジェロは絵もいかついなー・・・

ラファエロはヴァチカン美術館で観た時とは違って、とてもよく感じた。

すべての作品を観たと思うけど、作品が多すぎて、全部ゆっくりと観ることはできなかった。

総合的に「ウフィッツィ美術館」は大満足!

また是非訪れたい美術館の1つである。



「ウフィッツィ美術館」を満喫したところで、今回のフィレンツェでの目的は達成した。

花の都フィレンツェは、世界中の人々が集まる華やかな街だった。

そして、中心部は小さいエリアながらも、まだまだ奥の深い芸術の街なのである。


今も引き継がれるこの街の歴史、そしてそのエネルギー、人間の力に、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のドゥォーモ(大聖堂)内部でキリスト教の祈りを捧げた。



ミラノ一人旅  につづく・・・