春夜    蘇軾

 

   春宵一刻値千金    

   花有清香月有陰

   歌管楼臺聲細細

   鞦韆院落夜沈沈


 

 

 

 

        杏子

 

 

 

 

〈読み下し文〉

春宵しゅんしょう 一刻いっこく 値千金あたいせんきん

花に清香せいこう あり月に陰あり

歌管楼臺かかんろうだい 聲細細こえさいさい

鞦韆院落しゅうせんいんらく 夜沈沈よるしんしん

 

 

 

〈和訳〉

春の宵のほんのわずかな時間には、千金の値打ちがある。

花には清らかな香りが漂い、月は朧に霞んでいる。

歌や楽器で賑やかだった高殿も、今は微かに聞こえるばかり。

中庭にはブランコが一つ、夜は静かに更けてゆく。

 

 

 

 

 

・春の夜の静かな趣を詠じた詩。

王安石の「夜直」と共に、春の夜を詠じた詞詩では、双璧と称せられている。

 

 

 

宵:夕暮れて間もないころ。

管:楽器。

楼臺:楼閣。

   『楼』は、高く構えた建物。遠くを見る為の楼は、『望楼』。

   『臺』は、うてな(訓読み)高殿たかどの高楼こうろう。台。

鞦韆:ブランコ。秋千。

院落:屋敷内にある中庭。

 

 

 

・蘇軾 そ・しょく(1036-1101)

北宋の詩人。文章家。蘇東坡そ・とうば とも言う。

四川省眉山県出身。蜜州、徐州、湖州の知事を歴任。

儒教、仏教、道教のいずれにも通暁し(精通している)、

書画、詩文は言うまでもなく、詩余においても一家をなしている。

※詩余:中国の韻文の一体である詩のこと。

※一家:学問、芸術などで権威となる。