春風と油断させておいて、鉄拳のような力で
ぼうぼうとふく風の四月某日。
それでもわたしたちはあなたのなかへ入っていき
あなたを越えていかなければならないのだけれど、
そもそもやさしいだなんて決めつけているのは
わたしのほうだった。
鼻炎のせいだ。
冷めた白湯のせいだ。
気味の悪い桜のせいだ。
断定したらさっさと楽になるだなんて
本気で信じているのだから。
村上春樹氏のラジオを制作した名プロデューサーというより
村上龍氏のラジオ番組でノブエという名前を知った。
そこでのノブエさんは龍さんに頭があがらないキャラクターであったし、
龍さんはノブエさんをかわいがり?するような感じだったし、
更にノブエさんが、瀬戸内寂聴さんをモチーフにした小説を出版してからは
嫌悪感すらあったので、正直あまりいい印象がなかった。
だから、今回ノブエさんの訃報で
多くの著名人が嘆いているのを見てびっくりした。
暴露みたいな小説を書くのは品がないと感じてしまうのは
今だに変わらないけれど、
筆者が亡くなってしまえば、それも
次第に思い出話になってしまうものなのだろうか。
だとしても
若くしてひとが亡くなるのはさびしい。
それも死因の致死性不整脈とは一体なんだ。
あなたやわたしにも起こりうるような
不気味な響きじゃないか。
少なくともシュークリームや麻婆豆腐の響きとは全然違う。
黒でもなく白でもなくグレーでもなく、
油断させておいて不意に頬を打つような
春の強風のような迫力がある。
龍さんに平身低頭している声を
わたしの耳の浅い窪みに残して延江さんは死んでしまった。
どういう気持ちでいれば正しいのだろう。
正しい場所にいて、正しく悼みたい。
ただそれだけなのに、
ぼんやりと風に吹かれて揺れている。
鼻炎のせいか。
風に花をむしり取られた桜のせいだろうか。