隙間時間が多い仕事なので
本を持ち歩いていることが多い。
持ち歩く本は、チョコレートのように
鞄に雑に投げ込んでおけて荷物にならず
多少ヨレたり雨に濡れてもいいような
古い文庫本がふさわしい。
打ち合わせの喫茶店や控室に忘れてきても、
そんなに気落ちすることがない種類ものというのも
大切な条件になる。
ほんとうは。
降って湧いたような空き時間には、
目や頭を休ませておけるような
写真集や美術館で買い求めた画集などを
ぱらぱらとめくるくらいがちょうどいいのだが、
それらは概ね大きく重く嵩張るから
持ち運びには全く向かない。
そういう意味でいうと、歌集や句集も持って歩くには向かない本だ。
一首一句で完結しているから、
短い時間にさらっと触れるにはうってつけなのだけど、
大半が単行本であるし、自宅にいても机の上の埃をはらって
読むくらいの誠実さが必要な気がしてしまうのだ。
歌人東直子さんや笹井宏之さんの文庫版歌集も持っているけれど、
どうも鞄に放り込んでおく気分にはなれないのは、
歌集や句集の刷版が少ないという現実的な理由もあるにはあるが
居住まいを糺して読むものだいう刷り込みが
わたしのほうにあるからだろう。
結社『心の花』の歌人田中徹尾さんの第四歌集『和の青空』が上梓された。
ドイツの空が美しい表紙は、著者自ら撮影した写真だという。
当然ながらこちらも、
持ち歩くのではなく自室にてゆっくりと読む歌集である。
このところ余裕なくばたばたと過ごしているので、
まだまだ完読はしていないのだけど、美しい表紙に惹かれ
書棚に立てかけて眺めていたのだった。
和、というのはお生まれになったお孫さんのお名前で
にこ と読ませるらしい。
和毛(ニコゲ)というのは聞いたことがあるので
正式な読みだろう。
平和の和で、柔らかな優しい印象も受けるし
「にこちゃん」って呼ぶのも呼ばれるのも
想像するだけでほのぼのとする。
キラキラネームとひとくくりにしたら、怒られるかもしれないけれど、
名前がキラキラしていて悪いなんていうことはちっともない。
和ちゃんがこの歌集を読めるようになったら
きっと彼女は誇らしく思うだろう。
愛されているということを知るきっかけが
歌集であるという幸福は、
そう誰にでもあることではないのだから。
感想はまた後日。
